純粋なモーターサイクルのEV(電動車)のみ・・・ではなく、ハイブリッド車そのほか様々な古今東西の「ローエミッション」な2輪車を紹介する連載企画。今回はホンダ伝統の実用車用の車名を継承する電動バイク、BENLY e:(ベンリィ イー)シリーズを紹介します・・・そして「ベンリイ」という車名の歴史と、ヤマハGEAR登場以降の実用スクーターの歴史も、併せて紹介します!

「ベンリイ」から「ベンリィ」に表記が変わった、ホンダ伝統の名前

そもそもホンダの「ベンリィ」という名は、1950年代に生まれています。語源は「便利」ですが、1950年代半ばまでの時代の国産車はほとんどが「実用車」でしたので、ホンダは便利な乗り物であることをあらわすネーミングを与えたわけです(なお1980年代までは「ベンリイ」と表記されていました)。

1950年代半ばころから日本でもモータースポーツへの関心が急速に高まり、国産本格スポーツモデルを求める声が増えることになりますが、ホンダは1959年に初めてCBを冠する市販スーパースポーツ車であるCB92を発売します。このCB92はベンリイスーパースポーツという名前でした。

1万回転以上の高回転から15馬力の最高出力を絞り出したCB92は、国内だけでなく、海外の輸出先でもモータースポーツの舞台で活躍しました。

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CB92の後にもスポーツモデルのCB系「ベンリイ」はリリースされることになりますが、1980年代に入ってからはビジネスバイクと呼ばれるようになる、CD系モデルのみに「ベンリイ」が与えられるようになります。そして1990年代には「ベンリィ」と表記が変わることになります。

1998年3月発売のベンリィCD90。パンク防止効果を発揮するタフアップチューブを、前後輪に標準装備していました。

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ヤマハGEARのヒットを受けて、ホンダも実用スクーターを開発

日本では長らく、原付実用車の世界ではホンダのスーパーカブ系とベンリイCD系の人気が高かったですが、1994年にヤマハが渾身の力作である「GEAR(ギア)」をデビューさせると、実用車界の勢力地図に変化が生じることになりました。

当時、日本全国ではおよそ100万台の実用車が普及していましたが、ヤマハは新聞配達に携わる人の半数がパートの主婦などの女性であり、ピザの配達の大半は学生アルバイトの若者という社内調査をまとめていました。

彼女ら、彼らは、1982年をピークとするファミリーバイク・スクーターブームを経た世代で、2輪車のギアチェンジ操作を経験したこともない人も少なくない・・・。いわゆるオートマチックに慣れた「オートマチック世代」向けの実用スクーターを開発すれば・・・という分析から、GEARは生まれたのです。

初代ヤマハGEAR(1994年)。キープコンセプトで、現在も販売を続けているロングセラースクーターです。

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ライバルのGEARの大ヒットを受け、ホンダは1995年4月よりGEARに似た「トピック」を発売。その後21世紀を迎える年の前後、2ストローク公道用市販車の多くが「平成10年規制」の影響で廃盤にされることになりますが、トピックもその流れでラインアップから外れることになりました。

ホンダトピックは、30kgまで積める大型リアキャリアが大きな特徴でした。

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なお2007年を最後に、CD50で唯一残っていた伝統ある「ベンリィ」の名は一旦ホンダのラインアップから消滅しますが、2011年9月発売の、トピック廃盤以降ずっと空席だったビジネススクーターの後継機種に「ベンリィ」の名を与えています。

4ストローク50ccエンジンを採用した2011年型ベンリィ。大型フロントバスケットを備える、ベンリィ プロも同時に発売されていました。

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2011年登場のビジネス用オートマチック原付スクーター、「ベンリィ」をEV化

その後実用スクーターのベンリィシリーズは、2012年に原付二種のベンリィ110を追加し、2015年には50ccが水冷化するなど発展。そして2019年暮れには、ベンリィの電動版といえる「BENLY e:(ベンリィ イー)」シリーズを、法人向けに2020年より販売することを公表しました。

BENLY e:シリーズは計4種類ですが、ⅠとⅡの違いは、ⅠよりⅡが出力が高く、ⅡよりⅠが一充電あたりの走行距離が長い・・・というもの。そしてスタンダードとプロは、プロにはナックルガードやフロントバスケットが付属するという装備の違いのほか、コンビブレーキ式のフットブレーキを採用するという特徴があります。

動力用バッテリーには、2018年発表のPCX ELECTRICに採用した着脱式のモバイルパワーパックを使い、モバイルパワーパックを動力源とするホンダ製2輪EVの第2弾として、BENLY e:シリーズを位置付けしています。

BENLY e:Iプロ。なお、Ⅰは30kg、Ⅱは60kgを最大積載量に設定しています。また電動の強みを活かし、モーターを進行方向とは逆回転させる、後進アシスト機能を備えています。

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PCX ELECTRICの後に登場したBENLY e:シリーズは、モバイルパワーパックの着脱機構改良、新型
分布巻きモーター採用、PCUからモーターへの三相交流の供給など、さまざまなアップデートが与えられています。

BENLY e:シリーズの、システム作動概要イメージ図。PCX ELECTRICと同じく2個のモバイルパワーパックを、コンタクターで直列接続した96V系の電力を使用。ダウンレギュレーターは、モバイルパワーパックからの供給電圧を96V系から12V系へ降圧し、EVシステム以外の灯火類や12Vバッテリーなどの電装部品へ電力を供給しています。

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気になる販売価格は税込73万7,000円〜と、安価を旨とするICE(内燃機関)2輪実用車に慣れた身には「ギョッ!!」とする高額ぶりです・・・。もっとも、電動実用車が普及しきった未来には「1990年代初期のころは、CPUクロック周波数33MHzのパソコンが100万円以上したんだぜ〜」みたいに、アーリーアダプターは高い買い物していた自慢が、実用車のEVに関してもされているのかもしれませんね・・・?

ホンダ BENLY e: Ⅰ(プロ)主要諸元
車名・型式 ホンダ・ZAD-EF07(ZAD-EF08)全長×全幅×全高 1,820(1,840)×710(780)×1,025(1,050)mm 軸距 1,280mm 最低地上高 115mm シート高 710mm 車両重量 125(130)kg 乗車定員 1名 一充電走行距離87km(30km/h定地走行テスト値)最小回転半径 1.9m
原動機形式・種類 EF07M・交流同期電動機 定格出力 0.58kW 最高出力 2.8kW[3.8PS]/3,000rpm) 最大トルク 13N・m[1.3kgf・m]/2,000rpm
タイヤ 前 90/90-12 44J 後 110/90-10 61J ブレーキ形式 前後 機械式リーディング・トレーリング 懸架方式 前 テレスコピック式 後 ユニットスイング式 フレーム形式 アンダーボーン 駆動用バッテリー Honda Mobile Power Pack 2個
価格 73万7,000(74万8,000)円 *税込、車両本体、モバイルパワーパック2個、専用充電器2個

ホンダ BENLY e: Ⅱ(プロ)主要諸元
車名・型式 ホンダ・ZAD-EF10(ZAD-EF11)全長×全幅×全高 1,820(1,840)×710(780)×1,025(1,050)mm 軸距 1,280mm 最低地上高 115mm シート高 710mm 車両重量 125(130)kg 乗車定員 1名 一充電走行距離43km(60km/h定地走行テスト値)最小回転半径 1.9m
原動機形式・種類 EF10M・交流同期電動機 定格出力 0.98kW 最高出力 4.2kW[5.7PS]/3,900rpm) 最大トルク 15N・m[1.5kgf・m]/1,500rpm
タイヤ 前 90/90-12 44J 後 110/90-10 61J ブレーキ形式 前後 機械式リーディング・トレーリング 懸架方式 前 テレスコピック式 後 ユニットスイング式 フレーム形式 アンダーボーン 駆動用バッテリー Honda Mobile Power Pack 2個
価格 73万7,000(74万8,000)円 *税込、車両本体、モバイルパワーパック2個、専用充電器2個