電動バイクでモータースポーツに参戦するとき、現状で最も弱点になるのは量産公道車同様に「航続距離の短さ」でしょう。しかし一瞬で勝負が決まるドラッグレースでは、上述の問題は無視することができます。また電動ドラッグレーサーはICE(内燃機関)車より、まだまだ技術的改良の余地があり、その進化の伸びしろは大きい・・・といえるでしょう。

ラリー "スパイダーマン" マクブライドが樹立した2012年の記録を更新!

1/4マイル≒402mという短距離の速さを競うドラッグレースは、アメリカで特に人気のあるモータースポーツです。アメリカにはNEDRA(全米エレクトリックドラッグレーシング協会)という団体があり、この組織は2012年から彼の地のドラッグレース統括団体のひとつであるNHRA(全米ホットロッド協会)のASO(代替裁許機関)となり、今日に至るまで2&4輪EVのドラッグレース競技を統括しています。

なお余談ですが、1953年設立のNHRAの規則書には「内燃機関を使用」という一文が記され続けていたため、NEDRA創立メンバーたちはロビー活動を行いEVを承認させる必要がありました(1999年にEVを認める規則書に改定)。

NEDRAがNHRAのASOになってから10年後・・・2輪EVで初めて6秒台に入る記録がバージニア・モータースポーツ・パークで樹立されました。この世界記録を打ち立てたのは、ラリー "スパイダーマン" マクブライド。彼はドラッグレースの最高峰、トップフューエルクラスで幾度も王者となったレジェンドライダーです。

201 mph @ 6.94 sec - Lawless OCC Electric Drag Bike & Larry "Spiderman" McBride

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2012年のマクブライドの記録・・・6.94秒・201mph(≒323.478km/h)はその後、2020年9月13日に破られるまで2輪EVによる世界最速タイムとしてレコードブックに記され続けました。この記録を破ったのはデンマークのチームであるトゥルー・カズンズのハンス-ヘンリック・トムセン。欧州のチーム/ライダーが記録を破ったことに、アメリカの関係者たちはショックを覚えたようです。

トゥルー・カズンズの「シルバーライトニング」。その名が示すとおり、アルミ合金パネルのシルバーが印象的な外観です。350Vで2つの8.5インチモーター(48V)を駆動。800〜1,180馬力で、380kgの車体を加速させます。なおフロントエンドは、ヤマハYZF-R1用を改造して用いています。

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新記録が樹立されたのは、英国のサンタポッド・レースウェイのイベント「ノット・ジ・ユーロ・ファイナルズ」。1/8マイル≒201mを4.37秒・257.5km/h、1/4マイル≒402mを6.87秒・307km/hで駆け抜けました。

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NEW overall World record for Electric Drag Vehicles - Silver Lightning by True Cousins

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5秒台に突入するのは・・・そしてトップフューエルと最速を争うことになるのはいつになるでしょうか?

サンタポッドのトラックは、彼らがいつも走るスウェーデンのトラックと路面状態が異なり、トゥルー・カズンズの面々はブルシェイク(後輪が変形して跳ねる現象)に悩まされました。10度欧州のトップフューエル王者に輝いたイアン・キングのアドバイスを受け、出力やタイヤ空気圧を少し下げることでチームはブルシェイクの減少に成功。そして更なる記録更新に挑みます・・・。

New overall & final World record for Electric Drag Vehicles - Silver Lightning by True Cousins

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見事シルバーライトニングを託されたヘンリックは、6.86秒・314km/hと自身の記録を0.001秒短縮。最後の80mでヘンリックは手を滑らせスロットルを少し緩めてしまい、フルパワーの20%を1.5秒間失っていました。それでも好成績を残せたわけですから、シルバーライトニングにはまだまだ記録を伸ばす余地があると言えるでしょう。

ニトロ燃料と過給器を使い、1,500ccから1,500馬力以上を発生する最強ドラッグレーサーのトップフューエルは、5.5秒!で1/4マイルを駆け抜ける実力があります(こちらの動画は2019年11月21日の、サウスジョージア・モータースポーツ・パークでのL.マクブライドの走りです)。

FASTEST. RUN. EVER!

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一瞬で勝負が決まるドラッグレースで、ICEVとEVの記録の差・・・約1.3秒差はとてつもなく大きな差です。しかしモーター、バッテリー、制御技術・・・etc.の、進化の速度が上がればという前提条件つきですが、EVがトップフューエルを"キャッチアップ"するのは思うより遠い未来のことではないかもしれません? 今後のEVドラッグバイクの進化に、注目していきたいです!