集英社 週刊ヤングジャンプ連載中(2021年5月現在 〜25巻)の大人気コミック。日露戦争を生き抜いた帰還兵杉元佐一と、アイヌの少女アシㇼパがタッグを組んで、アイヌの埋蔵金の行方を追う!
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©野田サトル/集英社・ゴールデンカムイ製作委員会

アイヌが遺した金塊を巡る 三つ巴の抗争を描く大作コミック

舞台は日露戦争終戦後の北海道。
和人(本州の日本人)から北海道を独立させるため?の軍資金としてアイヌたちが集めたとされる巨額の埋蔵金を求めて、日露戦争最大の激戦区 旅順で生き残った日本陸軍最強の第七師団の残党と、五稜郭で死んだとされていた元・新撰組副長の土方歳三らが暗躍する中、同じく日露戦争下で、不死身の杉元という異名をとった帰還兵 杉元佐一は、偶然知り合ったアイヌの少女アシㇼパをパートナーに埋蔵金探しに加わる。

しかし、埋蔵金の在処は、網走刑務所に収容されていた24名の囚人の身体に施された刺青に記されており、すべての刺青を集めなければ、その場所はわからないようになっていた。

情報将校 鶴見中尉率いる第七師団の残党と、土方歳三一派を敵に回して、杉元とアシㇼパに勝ち目はあるのか??

そういうお話です。

不死身の帰還兵 と悲劇的な境遇に置かれたかもしれないアイヌの少女の奇妙な関係→アイヌ文化への軽い接触

主人公の杉元には惚れた女性がおりまして。彼女はある事情から杉元の親友と結婚してしまうのですが、眼の病を患って失明寸前になってしまいます。杉元の親友は金を稼いで彼女に手術を受けさせようと考えるのですが、杉元をかばって爆弾の直撃を受けてしまいます。
こうして、命を落とした親友に代わって彼女の目の手術代を稼ごうと、杉元は金塊探しに一枚噛むことになるのです。

杉元と組むことになるアイヌの少女アシㇼパは、アイヌの埋蔵金を隠した首謀者が自分の父親(アイヌ語で、アチャ、といいます)かもしれない、という恐るべき疑念を抱きながら、杉元と共に行動します。
彼女は勇敢で死を恐れない杉元に、好意以上の感情を抱くようになりますが、杉元の心に他の誰かが住んでいることをそれとなく悟って想いを封じこめているようです。杉元もアシㇼパを大事に扱いますが、それは大切な妹に対する優しさのようにもみえます。2人の間柄は、他の誰にも引き裂けない密接なものになりながら、ひどく脆そうにも見えてくるのです。

ちなみに本作では、敵の目を避けるために、杉元とアシㇼパは山野で行動することが多く、その過程で杉元はたくさんの事柄をアシㇼパから学びます。アシㇼパは少女でありながら(物語開始時点では、おそらく12歳くらいかと?)狩や植物採集における、アイヌらしい豊富な知識を持ち、厳しい自然を生き抜く術を知っています。

その流れで、読者である我々もアイヌの文化、特に食事(1日に何回かは必要になることですからね!)に関する事柄に触れる機会を多くもてる仕掛けになっています。

なにより耳に残るのは、骨や内臓ごと美味しくいただくための料理法チタタ(アイヌ語で、みんなで叩くもの、という意味らしいですが、一種のタタキですかね。鮭からリスからなんでも叩いて潰して、鍋に入れたりします) ヒンナヒンナ(感謝、という意味のアイヌ語ですが、美味しいと感じるときに使うようです)の二つですね。

あとは、尾籠な話で恐縮ですが、オソマ(アイヌ語で糞のこと。杉元が常備している味噌を見て、アシㇼパがオソマと勘違いする、というシーンで出てきます)かなあ。

とにかく、読んでいるだけでなんとなくアイヌに親しんでいる気がしてくるので、本作はアイヌ文化を知るための入門編としての評価を受けていると聞いたことがあります。

被ることのない、多くの魅力的な登場人物たち

冒頭で述べたように、本作の主人公は不死身の杉元こと杉本佐一とアイヌの少女アシㇼパですが、埋蔵金の在処を求めて暗躍する多くのバイプライヤーが登場し、それぞれが見た目も性格も背負ったストーリーもとてもユニークで実に唆られます。
例えば第七師団を率いる鶴見中尉は、天才的な人たらしで、階級に関係なく多くの人を魅了し、自在に操ります。日露戦争を勝利に導いたのは自分たちだという自負を持ちながら戦後冷遇されていることを不満に思い、クーデターを起こすための軍資金として埋蔵金を探している、という話ながら、本当の彼の狙いはよくわかりません。ただ鶴見中尉の悪魔的に緻密な戦略と大胆な行動は、悪役としての存在感を示して余りあります。

また、彼と敵対し、杉元たちをも時に組み、時に冷酷に切り捨てようとする土方歳三も、五稜郭で倒れなかったらこんな感じになってそうと納得できる、目的のためならなんでもやる感満載の、さすがの鬼の副長ぶりを見せてくれます。

他にも、鶴見陣営にいたと思えば土方と組んだりと、およそ信念などなさそうな狙撃の達人 尾形上等兵や、アシㇼパの父親の元盟友と思われるアイヌのキロランケ、杉元達の仲間になる天才的脱獄囚 白石由竹など、多くのキャラを登場させながらも、一目で分別し得るデザインとそれぞれに独特の魅力を与えることに成功しているのが、本作の魅力であり、作者である野田サトル先生の力量の高さの証明、と言えるところでしょう!

好みはあるでしょうが、トーマス的にはアニメ版よりコミック版をオススメします

さて、本作はテレビアニメ化され、現在シーズン3が一部配信されているようです。
が、ぼくが思うに、本作が持つユーモラスな感じをなくさずに残虐とも思えるシーンを描き切る、青年誌連載ならではの面白さはアニメ版では描き切れてない気がします。(また、「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」などのような、戦闘シーンの緻密な描写も少ない気がします)まあ、そこは好き好きなんでしょうが、トーマス的には、コミック版を優先して読み通すことをオススメします。

もちろん、アニメだろうがコミックだろうが、面白いか面白くないか?と聞かれたら、断然面白い!と答える絶対おすすめの作品です。どうぞ、安心してご賞味くださいませ。ヒンナヒンナと思わず口にすること請け合いです。