刑事裁判のみを扱う、武蔵野地方裁判所の第一刑事部(略してイチケイ)の裁判官たちの日々の努力と葛藤を描いたリーガル・コミック(「モーニング」2018~19年連載)。
竹野内豊さんx黒木華さんのコンビで実写ドラマ化されました。

設定を大幅に変更してドラマ化

フジテレビ系列の通称月9(月曜21時からのドラマ枠で人気作品が目白押し!)に登場した『イチケイのカラス』。かつての?イケメン俳優代表格の竹野内豊さん主演、素朴な可愛さで人気の黒木華さんや 超実力派脇役 小日向 文世さん、現代のイケメン俳優代表の新田 真剣佑さんなど、力の入ったキャスティングでも話題のこの作品。よし、原作のコミックを読んだれ!とAmazon漁ったら、いやあなたずいぶん前に既に購入してるじゃないですか的な反撃を喰らい。そう、ぼくちん、この作品とうの昔に読んでたんです(恥)。

『イチケイのカラス』は、いわゆるリーガルコミックなのですが、スポットライトを浴びるのが弁護士でも検事でもなく、裁判官というところが珍しいです。
いわば、裁判におけるレフェリーに焦点を当てているようで(実際には違うんですけどね!)、なんか地味。でも、淡々と法律と判例に則って作業を進めてそうな判事たちの中の葛藤や逡巡をきっちり描いた、いい作品なんですよ。

原作とドラマの最大の違いは、主人公が変わってること。原作のコミックでは、主人公はイチケイに配属になったばかりの超真面目な若手裁判官 坂間真平。男です。
そして、彼が出会う年上の同僚 入間みちお。元々刑事事件専門の弁護士だったんですが、思うことあって裁判官に転身した変わり者です。見た目は太って冴えない中年男ですが、裁判や被告たちに真摯に向き合う熱いヒトです。

それがドラマになると、まず主人公が入間みちお=竹野内豊=イケメン、オリジナルの主人公である坂間は性別もファーストネームも変わって(坂間千鶴=黒木華)しまいます。

なんでやねん!と思いたくもなりますが、この原作コミック、恐らくはあまりの地味さにちゃんと発展する前に打ち切られてしまったっぽくて、坂間の人間性や裁判官としての感覚が入間の影響でだんだん変化していく様を描ききれてないんですね(予期できるんですが、イントロで終わっちゃってる感が強いんですッ)。

むしろ入間の人となりや、弁護士から裁判官へと転身した背景などが先に描かれているんで、主役にしやすいんでしょう(T . T)。坂間くんたしかに地味すぎるし、あまり活躍してないように見えるし。

まあ、でもそれはよしとしましょう。
とにかく、悪人を追い詰める検事や、弱き者を助ける弁護士、といった設定のドラマは数多い中、裁判官を主役に据えた作品はなかなかない。そこに着目し、トライした、という事実を温かく受け入れるべきだと思うんですよ。

再読に耐える確かな味わい

さて。実写ドラマはちゃんと観てない(すみません)ので語る資格がございません。ここは原作コミックにのみ集中してご紹介致しましょう。

まず相対的にいうと、実にいい作品です。
打切られるのも仕方ないくらい地味だとは思いますが、改めて読むと結構心に染み入るストーリーです。

法律に則って、周囲の雑音に耳を貸さず、的確な判決を下せばよいと考える主人公の坂間判事が、入間判事や、上司である駒沢部長(ドラマでは小日向文世さん)の影響で 徐々に自分が下す判決が被告人(とその家族や周囲の人々)の人生を大きく変える重大な意味を持つことを意識し始める。そんな過程を、過度にドラマチックに煽ることなく淡々と描いている作品です。

つまり、繰り返しますが地味です(すみません。だってほんとに地味なんだもの)。だけど、それがゆえに、繰り返し読むことに耐える真実の情感があります。

新型コロナウイルスのおかげで、外出しづらい日々が続きますが、小説にしても漫画にしても映画などにしても、さまざまな創作物をじっくり鑑賞する時間ができたと思えば、悪いことばかりではありません。本作は、そんな時間を使っても、決して浪費になることなく、心を浄化し昇華させる作品だと思います。

実写ドラマを観てイケメンや美女の競演を楽しむ良さも否定しませんが、こうした名作が過去にあって、さらにそれらに触れるチャンスを得られる喜びを、逃すことなく受け止めることも是非ともオススメいたしますです。