多角化経営・・・でバイク生産を始めたノーム-ローヌ
世の中には、航空機産業から自動車/2輪車産業へ進出したメーカーが数多存在しますが、第一次・第二次世界大戦の敗戦により母国が航空機製造禁止措置をとられたため・・・というパターンが多いです。
その点で、フランスのノーム・エ・ローヌは、航空機エンジンメーカーとして活躍中の1920年ころから、自動車用シャシーおよびエンジン、ディーゼルエンジン、ミシン、冷蔵庫などのほか、多角経営化の一環として自社ブランドのバイク作りを始めた変わり種・・・と言えるでしょう。
そもそもノーム・エ・ローヌは、航空機エンジンメーカーの「ノーム」が1915年に同業者の「ル・ローヌ」を買収して生まれたブランドです。1920年には、英国の天才デザイナーのグランヴィル・ブラッドショーが設計した水平対向400ccを搭載する「ABC400」のライセンス500cc版を、「ノーム-ローヌ」のブランドで販売しています。
1920年代半ばまでABC500を3,000台作ったあと、ローム-ノーヌは独自設計のバイク作りをスタート。軍用サイドカーとして1936年に作られた「AX2」は、シビリアンモデルの水平対向750ccツインの「タイプX」をベースにしています。
タイプXはOHV(オーバーヘッドバルブ)で最高出力33馬力・最高速度150km/h(※ソロ時)をマークする当時の高性能モデルでしたが、過酷なオフロードの使用が主となる軍用サイドカーのAX2は、動弁系をサイドバルブに変更するとともに排気量を800ccまで拡大。
AX2の最高出力は18.5馬力まで低くなりましたが、4,000rpmで最高出力を発生する低中速重視のエンジン特性により420kgのペイロード(運搬能力)を実現しています。
AX2の最大の特徴は、現行車ではウラルサイドカーのギアアップ系モデルのみが採用している、ユニークな2WD機構を備えているところです。4速+リバースのギアボックスからカルダンシャフトを介して、本車(バイク)後輪だけでなく側車輪を駆動するAX2の2WD機構は、オフロードでの走破力を高めるためのメカニズムでした。
パリからダカールまでの、テスト走行で信頼性を実証!
ラリーレイド競技好きの方なら、年末年始に行われる「ダカールラリー」を知らぬ人はいないと思いますが、1938年の12月2日〜28日の間、AX2の信頼性確認のため「パリ-ダカール」をルートとする長距離テストが行われました。
1978〜2007年の「パリ-ダカ」時代をイメージさせるような、パリからダカールまでの道程を、フランスの軍用車がテストするというのも、ちょっと面白いエピソードですね。このテストを無事に終えたAX2はフランス軍のほか、ポーランド、チェコスロバキア、そしてソビエトにも納入されました。
連合国にも、そしてドイツにも使われたAX2
しかし1940年6月、ドイツ軍はパリに無血入城。航空機エンジンを作るノーム・エ・ローヌがドイツ軍機用エンジンを作らされたように、AX2もドイツ軍に利用されるようになります。ドイツ軍はアフリカ戦線で捕獲した車両を自軍で使ったほか、ディジョンにあったバイクメーカーのテローにも、AX2を生産させています。
早々とドイツに支配されたベルギーの「M12a SM」同様、AX2も連合軍側、ドイツ軍側、両方の勢力に使われることになったわけです・・・。ドイツ占領下のテローの工場でも製造されたこともあり、AX2は終戦期の1945年まで生産されることになりました。その数は約2,700台と言われています。
こちらの動画は生き残りのAX2で、オフロードを楽しげにテストする様子をおさめたものです。AX2の2WD機構の実力を、ぜひ動画でチェックしてみてください!