Lawrenceが独断と偏見? で選んだ、2020年の2輪業界にまつわる10大ニュース(順不同)。"デスモドロミック"=強制開閉弁機構といえば、ドゥカティの"金看板"的なテクノロジーとしてあまりに有名です。しかし、ドゥカティはあえて"デスモ"を採用しないニューモデル・・・ムルティストラーダV4を、市場に投入し多くのモーターサイクルファンを驚かせたのです!

21世紀初の"ノンデスモ"

1950年代から1980年代にかけて、ドゥカティの主任技師として活躍した鬼才ファビオ・タリオーニがデザインしたドゥカティのデスモドロミックは、弁=バルブを戻すこと一般的なバルブスプリングに頼ることなく、カムシャフトのカムプロフィールが担っているのが特徴です。

バルブスプリングを廃したことでカム面をスプリングが押し戻す力から解放するとともに、当時のバルブスプリング材の品質に由来するサージングなどのトラブルを排除した"デスモ"は1956年から高回転域を多用するロードレース用エンジンに使われることになりました。

1960年代末からは、いよいよ量産公道用モデルにもデスモの採用を開始。1970年代に入ってからドゥカティは世の中の大排気量車の流行に乗り、単気筒からVツインモデルへ開発の軸足を移していくことになりますが、それらVツインモデルの多くにもデスモを採用しました。

当時、日本でも人気だったドゥカティ250 Mk3デスモ(1974年型)。高性能軽量スポーツであるドゥカティのデスモシングルは、今日も多くの愛好者がいます。

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ムルティストラーダV4系以外にも、V4グランツーリスモは使われるのか?

1970年代のドゥカティは4ストローク単気筒やVツインのほか、2ストローク単気筒オフロードモデルや並列2気筒ロードスポーツなど、製品ラインアップの多バリエーション化を試みましたが、1980年代半ばからはVツインのみをラインアップするようになり、すべてのモデルがデスモ採用車となりました。

1993年から販売された単気筒市販レーサーのスーパーモノや、2008年に限定販売されたMotoGPレプリカのデスモセディチRR(V4)などの例外を除けば、ドゥカティは2018年モデルとしてパニガーレV4系をリリースするまで1980年代からの長い間、デスモ採用V型2気筒エンジン搭載車のみ・・・を販売してきたわけです。

そんなドゥカティが、今年公開したムルティストラーダV4用の"V4グランツーリスモ"という新型V4エンジンに、あえてデスモを採用しなかったことは大きな話題となりました。

ムルティストラーダV4シリーズは、スタンダードのV4、V4S、そしてV4 Sportの3バージョンがラインアップされています。

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現在ドゥカティのラインアップ中で、世界の市場全体で最も人気があるのはアドベンチャーモデルのムルティストラーダシリーズです。

デスモはその性能を維持するために、正確なバルブクリアランス調整が求められます。一例としては、デスモセディチ・ストラダーレの場合、バルブクリアランス調整期間は24,000kmが設定されております。

長距離ツーリングに使われることが多いアドベンチャーモデルは、一般論としてその走行距離がスーパースポーツ系モデルよりは自ずと多くなるのは言わずもがな、です。ムルティストラーダV4用に開発されたV4グランツーリスモはデスモを採用しないことの"メリット"として、地球を約1.5周する距離・・・60,000kmという長いバルブクリアランス調整期間を得ています。

つまりアドベンチャーモデルを愛用するユーザーのプラスになる選択・・・ということで、ドゥカティはムルティストラーダV4に"ノンデスモ"もエンジンを用意したわけですね。


左が新型"グランツーリスモ"90度V4エンジン、右がテスタストレッタV2エンジンです。そのサイズ差は、一目瞭然でしょう。数値としては、V2比で機関全長を85mm短縮し、全高を85mm低くしています。一方全幅だけはV2より増加していますが、増えたのはわずか20mm・・・に抑えられています。

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気になるのは今後、1,158ccのV4グランツーリスモをムルティストラーダV4系以外のモデルにも採用していくのか・・・です。パニガーレV4系のデスモ採用V4=デスモセディチストラダーレは、ストリートファイターV4系に搭載されていますが、ドゥカティがデスモ採用V4とノンデスモV4をどのように使い分けしていくのか・・・? どんなV4ドゥカティが将来誕生するのか・・・そんなことを考えてみるのも楽しいですね!