たとえば、このスポーツに最適化された独特の形態をもつ専用パーツ、所謂 " (ダート) トラッカーシート (カウル) " のテール部分裏側が、本場の・本気の・本格的な競技車両では、どのようにしつらえ処理されているか、みたいな細部までじっと目を凝らし探求を始めると、シンプルなダートトラックレーシングの世界は徐々に雄弁に語りだし、より豊かな体験をあなたにもたらしてくれるでしょう。

1を聞いても10までは想像しない?森にいるのに木の細部まで知る気ない?

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。足踏み気味の2020年にあっても季節は進み、"ゲージュツの秋" も日に日に深まってきましたね。

"神は細部に宿る" 。ときに世界の100名言にも数えられたりする?ものづくりの世界ではよく知られるフレーズですが、大小のオーバルトラックを横滑りしながら疾走し、互いの優劣を競うこと "だけ" がそもそもの出発点である、ダートトラックレース専用マシンのもつ細かなディテールのあちらこちらからだって、なにかものごとの本質に近づく一端を見出すことはきっとできるでしょう。

インターネットの様々なコンテンツやSNSには無数の写真が上がり、人はそれをチラっと見た証にいそいそといいねすることばかりに追われる日々。深く掘り下げたりしつこく考える時間はもはやなかなかありませんが、ライディングにだって勝負事にだって日常にだって、イマジネーションとバイタリティ、それらを裏付けする知識と理解の幅と深さは、多ければ多いほど良いはずです。

思うに全ての元凶は、あの "ストリートトラッカーブーム" だったのかな?

筆者はここ最近、ふとした思いつきから、20年ほど前の "ストリート系バイカーズ雑誌" とかのバックナンバーをいそいそと収集しています。その頃といったら、複数の雑誌で毎月なにかしら本場アメリカのダートトラック関連のトピックでそれぞれ数ページが組まれる、我々にとって今ではちょっと考えられないほど幸運な時代だったのです。

世紀の変わり目あたりからの数年分はすでに (オークションでもフリマサイトでも対抗馬なんていませんのでチョー安値で) コンプリートしましたが、時はまさに空前の "ストリートトラッカーブーム" 。ネコも杓子も、それこそTWもチャッピーも "トラッカー・カスタム" として扱われる、まさにうたかたの大ブームであった故、ダートトラックレーシングが広く一般にも知られるようになったのと同時に、"キノコ型エアフィルターと円盤式マフラーさえついていればトラッカーでしょ?" みたいな、大いに偏った認識が深く浸透してしまった、そんな奇妙な時代だったように思うのです。

"前ブレーキ付きのTTマシン・スタイルこそ、今の時代のストリートの空気感にピッタリ!" とか誌面では謳ってますが、こんなシュっとしたカスタムマシンは、たったの1台も出てきません・・・。

今もし誰かが "トラッカースタイル" に惹かれ、自分自身がダートトラックレーシングに取り組み始めるか、あるいは町乗りカスタムをスタートさせようかという二択の場面があったとして、競技の本場アメリカでなら、そのヒントはAFT: アメリカンフラットトラックをはじめとしたスポーツの世界からダイレクトに得ることになるでしょう。それっぽいか、それっぽくないかは非常に明快です。

じゃあ日本では?幅広ハンドルバーにフラットなシート、いろいろ外してスカスカで楽ちんポジションのカスタムスタイルがすべて "ストリートトラッカー" 扱いだったあの一時代の濃ゆい記憶もあって・・・それホントはチョップ = チョッパーとかボブ = ボバー的な手法だと思うんですけど・・・機能を追求したレーシングマシンの正しいイメージが全然根付かない、奇妙な土壌があります。

"ストリートとっつぁんバイク" であるTW200をあえて選び、本場アメリカのローカルシーンで本気で走らせる奇特な日本人がいます。そのうちこのプロジェクトはコラムでご紹介しましょう。写真のライダーは数年前に渡米してそのマシンに搭乗した駒崎誠寛選手 (FEVHOTS95)。

気安く取り組めるって "深入り" とか "長わずらい" し難いんじゃないか?

あの狂乱のトラッカーブームの時代にあっても、実際にダートトラックレーシングをスポーツとして体験し、そのままズッポリとハマって長く続けることになった人って実はそんなに多くはいないはずです。"当時から興味はあったけど・・・" と20年寝かせた興味と情熱で最近になってようやく足を踏み入れる方は実はポツポツいますけど。いやー、ずいぶん遠回りしましたね・・・。

エントリーユーザーに向けて、楽しいよ・気軽だよ・ためになるよ、とか間口を拡げて喧伝しても、入りやすい入り口からは出て行くのだって同じように簡単です。至れり尽くせりで万人をウェルカムしても、その後はっきり定着する割合ってたかが知れてるってことに気づいてしまったら、もうなんか住所も公開してない幻の名小料理屋みたいな?ハードコアーなスタンスのほうがよほど良いんじゃないかな?と思ったりもする昨今です。そんなに興味があるなら自分で探して来いよ、みたいな?

こんな空気感が我が国のシーンにも訪れる日が・・・やがて来るのか来ないのか??

ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!