本日はつい先頃このようなスタイルに仕上がったばかりの、国内各地のショートトラックを走るために組み上げられた、とある美しいダートトラックレーシングマシンをご紹介しましょう。ライダー本人が自身の経験と研究を元に、オーバル競技に要求される特徴的なキャラクターを淡々と追い求め、車齢およそ半世紀 (!) のちょっと珍しめの車両を題材に、必要にして充分な改修を丁寧に重ねていった結果、我々の眼前に姿を現したのは極めて洗練された佇まいの珠玉の逸品だったのでした。

ベース車両はCCM製BSA-B44・1970年代の英国製モトクロス競技専用車!

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。本日の主役であるレースナンバー45のこちらのマシン、ベース車両として選ばれたのは1970年代初頭の英国車で、美しいニッケルメッキのCCM (クルー・コンペティション・マシン社の頭文字) 製モトクロス競技用フレームに、4ストローク単気筒441ccのBSA製B44 "シューティングスター" エンジンを搭載した、当時で言うところのオフロード・コンペティション仕様車です。

大排気量ならではのトルク感溢れる単気筒エンジンを搭載したモトクロスマシンに、ホイールサイズの変更と専用レーシングタイヤの装着 (前後19インチ化) ・サスペンションストロークの変更などによる車体姿勢 (ジオメトリ) の最適化・旋回中の運動性能向上に大いに貢献する低重心化 + オーバル種目で望まれる野太い出力特性の一挙両得を狙って製作したごくごく短い腹下マフラーなどなど、この車両のモディファイ手法は現代の "DTXマシン" 製作のセオリーとも相通じるものがあります。

当時モノパーツの注意深い選択などによる時代考証の楽しみは言うまでもなく、ヴィンテージモーターサイクルをパリっと仕立てて走らせる、様々なスタイルには本当に幅広く奥深いものがありますが、筆者がこの CCM / BSA ダートトラッカーをゴリゴリとご紹介したい理由のひとつは、この50年前のオールドマシンが、心地よく (つまりより速く、なんなら他車にキッチリ勝つための工夫とポテンシャルを秘めて) オーバルトラックを疾走すべく、スポーツ用品として極めて明快なコンセプトと今日的な解法のもとに、いかにもササっと作られちゃっている (・・・ように多分見える) から。

CCM や BSA にまつわる逸話は、ロレンスに掲載されたこちらの記事をご覧ください。

乗り手の"自身作"!非ビジネスで流行にも流されていないのがチョー素敵!

このマシンのオーナー・ライダーは、名のあるカスタマイズショップの主とかではありません。筆者の長年の友人でダートトラックのキャリアはこの9月でだいたい17年。本人と同時に5歳でこのスポーツを始めたご子息もすでに立派な成人となり、本コラムの写真もすべて彼の提供によるものです。

このようにキチッと乗れて (時にはサンデーロードレース用に所有するさらに古風なサイドバルブのハーレーダビッドソンでもダートオーバルをぶっ飛ばす・・・) 、エンジン内部を含めて基本的なメインテナンスは自身の手で行い、このような車両製作の場面など、その道のプロの手が必要な箇所だけは外部に依頼してきっちりと仕上げるいわば "家内制手工業スタイル" 。

つまりこの車両はショップカスタムの看板サンプルでも、高価なプライスタグのつくスペシャルメイドの商品でもなく、乗り手が、自身のために、必要充分な手仕事で変な色気も出さずに淡々と仕上げた、17年間の経験と知恵が生んだ彼にとって日常の品 = スタンダード・エキップメントなのです。

想像するに、ハンドルの取り付け角とかステップペグの位置とかシートクッションの硬さとか、乗り手がリアルな実経験から身につけた、リラックスしつつ速く走り勝つための工夫は各所で枚挙にいとまがないでしょう。5年ほど前から世界中で大流行しているカスタマイズの最新トレンド、"いかにも脱力系だけど実は小聡明く狙ってやってますテイスト (もう・・・敢えて言いますね) " とはまるで出自の違う、まさにホンモノを生々しく知るものだけが生み出せる機能優先の美の世界。いいなぁ。

たとえキワモノゲテモノウケ狙いでもやりきった方がイケてるはず!多分!

特別な想い入れとか、勝手な思い込みとか、あるいはなにも考えなしだったりとかで、このスポーツにあまり向いていない (と一般的に言われがち) なマシンを選んでしまうことって、誰でもままあります。そんな時、マシンのミスチョイスを言い訳や慰み事にしていては、前へそして上へと歩みを進めるひとつの大きなチャンスをみすみす逃すことになるでしょう。

世界と互角に戦う一流ライダーがヘコヘコのビジネスバイクで素晴らしいパフォーマンスを魅せたからといって、あなたも全く同じマシンで勝負を挑む必要はありません。各部の状態を整え、競技の特徴とあなたのスタイルに最適化した特別な一台を誂えて・・エンジンパワーも出るだけ出して・・気合いと根性に頼らず、道具を他者より鋭く研ぎすませて勝ちを狙えば、それはより良いはずです。

夏の暑さが和らいで、巣ごもりの質もどうやら少し変わってきたこの秋、筆者もボチボチ改めて我が家の道具の刃研ぎを始めますよ。ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!