[トリビア] 偉大なJ.ダンロップの前にマン島TT最多勝だったのはダレでしょう？ [IOMTT]

初のTTハットトリック記録者！

公道を使った1周約60kmのマウンテンコースで競われるマン島TTは、第2次大戦後は世界ロードレースGP（現MotoGP）の一戦として・・・そして世界最高峰のロードレースとしてのステータスを長らく保っていました。公道を使う・・・というその危険性ゆえ、1976年限りにマン島TTは世界ロードレースGPのカレンダーからは外れることになりましたが、今でもリアル・ロードレーシング＝公道を使ったロードレースの最高峰という地位は揺るぐことなく、存続し続けています。

1勝するだけで生涯の栄誉として記録されるマン島TTですが、そんなTTの最多勝記録は今も2000年に48歳でこの世を去ったジョイ・ダンロップが保持しています。1977年ジュビリーTTでTT初勝利を記録したJ.ダンロップは、その後長年TT常勝の名手として活躍。2020年のウルトラライトウェイト、ライトウェイト250、フォーミュラ1TTでハットトリック（1大会で3勝）を記録したことを最後に、TT通算26勝という偉業を残しました。

では・・・そんなレジェンドであるJ.ダンロップの前に、TT最多勝記録を保持していたのは誰か？ それを知る人は相当のTTファン、もしくはロードレースファンだと思います。

J.ダンロップはいわば、世界ロードレースGPステータスを失った後のTTで活躍した第一人者ですが、J.ダンロップ に記録を破られる前に記録を保持していたその男は、GP時代と、"ポストGP"時代のTTで活躍した人物・・・と言えるでしょう。

その男は・・・マイク・ヘイルウッドその人です。1950年代末に頭角を現した若き才能の持ち主のヘイルウッドは、1961年TTでワークスマシン貸与のプライベーターという立場で、ホンダにとって初マン島TT制覇となるウルトラライトウェイト（125cc）とライトウェイト（250cc）の勝利を記録。さらに当時の最高峰セニアTT（500cc）ではマンクスノートンに乗り、"単気筒車最後のTT優勝"を成し遂げました。

1961年TTで記録したヘイルウッドの3勝は、1大会で3勝という"TTハットトリック"が初めて記録された快挙でした。なお、この年のジュニア（350cc）でもヘイルウッドはAJS 7Rに乗り勝利確実な速さを披露しましたが、マシントラブルであえなくリタイアしています。

TTハットトリックを2度記録！ そして2輪史上に残る"グレートカムバック"

その後、MVアグスタのエースに起用されたヘイルウッドは、MV時代にTT4勝を記録。1965年のGP最終戦である日本GP（鈴鹿）の250ccクラスからホンダワークスに加入したヘイルウッドは、1967年には自身2度目となるTTハットトリック（250、350、500cc）を達成！　この年限りにホンダがワークス活動を停止したため、ヘイルウッドはかねてから関心があった4輪レースに本格的に転向することになりました・・・。

その後1970年代半ば、F1を含む4輪レース活動に終止符を打ったヘイルウッドですが、競争者としての本能からかGPステータスを失った時代の1978年のマン島TTにドゥカティで参戦。約10年の2輪のブランクを物ともせず、見事TT-F1クラスで華麗なる復活勝利（通算13勝目）を記録しました！

そしてヘイルウッドは、1978年のマン島TT最高峰セニアクラスでスズキRG（XR22）に乗り、最後のTT勝利となる14勝目を記録。その1979年限りに、ヘイルウッドはモータースポーツから引退し、ライダー仲間のロドニー・グールド（1970年GP250cc王者）と2輪ディーラーを経営しました。

1981年3月21日、彼と娘のミシェル、そして息子のデビッドを乗せたローバーSD1はフィッシュアンドチップスを買いに行く道中に違法な転回をしたトラックに激突。わずか9歳のミシェルは即死・・・軽傷のデビッドは病院の治療で助かりましたが、40歳のヘイルウッドは2日後に息を引き取ることになりました。

こちらに紹介するビデオは、ヘイルウッドがマン島TT最後の勝利を記録した際の1979年のものです。彼の息子のデビッドのSNS投稿によると、先日ヘイルウッド未亡人のポーリーンがお亡くなりになったとのことで、デビッドは父、母、そして妹を失ったわけです・・・。

なお現在のTT勝利数記録はジョイ・ダンロップ26勝、ジョン・マクギネス 23勝、マイケル・ダンロップ19勝、デイブ・モリニュー17勝、イアン・ハッチンソン16勝・・・で、ヘイルウッドの14勝は歴代6位になっていますが、この中で世界ロードレースGP時代の勝ち星を含むのは、ヘイルウッドのみ・・・です。