モーターサイクル積載車として日本で通称 "トランポ" と呼ばれるクルマ、我々の身近で言うならレース用の前ブレーキや灯火類のないマシンをトランスポートするための、特に1BOXバンは、アメリカのモータースポーツ界隈では気軽に "MOTO VAN (モト・バン) " と呼ぶのが一般的です。

全国の軽トラッカー&ピックアッパーの皆さーん、ごめんねごめんね〜!

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。アメリカンカルチャーの象徴のひとつといえば "ピックアップトラック" 。荷台 (ベッド) にモーターサイクルや自転車、サーフボードにフィッシングボート・・・遊びアイテムに限りませんが、とにかく持ち主の興味の対象や仕事道具をザックリぼんぼん放り込む系の風景は、彼の国の自由そうなイメージと良く呼応します。

ラダーレール持ってないけど俺のトラックの前側持ち上げてくれるレッカー屋のダチならいるぜ?

かたや我が国には、実利が生んだ驚異の下駄グルマ "軽トラック" があります。居住性や長距離高速移動の快適さは望むべくもありませんが、だだっ広いアメリカの大地 + 大排気量ピックアップトラックともまるで対をなすかのように、熱烈な愛好家が存在することは皆さんご承知の通りです。

軽トラにケニー・ロバーツフレームの空冷2ストロークMX250(など)を搭載し日本中を徘徊する有名人。

といった具合で剥き出し露天のトラック後部ベッドにマシンを積み込む姿はどちらも象徴的でわかりやすく、そして同時にとっても合理的なんですが、本日ご紹介するのはアメリカの "モトバン事情" 。日本では言うまでもなくトヨタ・ハイエースがそのスタイルの王道ですが、日米のその内部空間の構成手法の違いなどを読み解くことで、見えてくるなにかが・・・あるかもしれません?

後部内装完全レスとか二列目以降ブッタギリ・グレードがよく好まれます。

あちらの人々がモトバンをパリっと仕立てようかなと考えるとき、一番人気は "ワークバン・パッケージ" です。座席は通常運転席と助手席しかなくてその後部はスッカスカの空間が広がるのみ。様々なワークスタイルに合致させるため、床壁天井は全て鉄板剥き出し。メイカー純正 / 社外品を問わず様々なオプションを選択し、あるいは本気の日曜大工で自分好みの内部空間を作り上げていきます。

日本車の1BOXバンの後部ドアは商用車でもファミリーカーでもトップヒンジで下から上に開くタイプが普通ですが、海外車種のほとんどは観音開きや片開き扉が主流です。そのココロはフォークリフトを差し込んでガンガン大荷物を積み込むことも想定しているのだとか。たいていの扉はストッパーを外せば180°ギリギリまで開き切る構造になっています。

さらに興味深いのは、あちらには通称 "CUT AWAY = カッタウェイ" と呼ばれる、二列目以降が工場出荷時から切断された状態で販売される後から架装する用のグレードが、ほぼ全てのメイカーのフルサイズ・ワークバンに存在することです。

初めから背抜き (後壁なし) で販売され、貨物用やキャンピング仕様の大箱やフラットベッド、あるいはスクールバス化されるなど、専門の会社が全米に無数に存在し、様々なニーズに答えます。

最近ちょっと治安の悪げな彼の国では、バリバリにコマーシャルしなければならないプロの世界はもちろん別として、何を積んでいるかわからないようなホワイト・ボックスバンが主流派みたいです。

既存を活かすやりくり上手な日本・白紙から欲望のままに組み立てる米国。

それでは "モトバン" の大まかな空間構成・仕切り方を解説していきましょう。参考例は幅狭・背高のヨーロッパ製商用車ですが、その組み立てはまさしくアメリカン・スタイルです。

運転席と助手席以降、なぁーんにもないドンガラの後部荷室に・・・

まずは前方の居住空間と貨物室を隔てるパーティションを作っていきます。

ここでは丁寧かつ高級にスチール角パイプの溶接仕上げで骨格が作られていますが、より一般大衆的なのは、北米スタイルの木造住宅工法でおなじみのツーバイフォー材を使った木工作業での製作。

骨組みに沿ってパネルを貼り・・・

ゼロから作った二列目シート周りにはそもそも商用車には存在しない大出力スピーカーを内蔵。

この車両の場合は元々の高さを活かし、二列目後方上部にストレージ兼バンクベッドを用意。

完全に前部と切り離された後部荷室は、各種収納と照明を追加して完全に"モトバン"となりました。後部天井にルーフベント (換気穴) を設置すれば、乗用エリアはガソリン臭とは完全に無縁です。

遠征・巡業・車内泊を全く考慮しないのであればこのような造作は必要ありませんが、ガランドウの荷室にさらに "バイク箱" を積むかのような切り分けは、一種の合理性の現れといえるでしょう。

番外編: 移送手段は目的次第?

とかく大雑把でスケールだけが大きな印象をもたれがち?なあちらの人々ですが (全く当てはまらないわけでもないけど) ことスポーツや競争事に関してはビンビンにシリアスで神経質な側面もあります。必ずしもその例には当てはまりませんが、実利を追ったらこうなった、の1ネタがこちら。

撮影: 中尾省吾

西海岸のカリフォルニアからオハイオ州までの4,000キロ、こちらの450ccダートトラックマシンをとにかく速く安く移送する必要に迫られた場面で、彼らが選んだ手段は "バラしてセダン" でした。

撮影: 中尾省吾

前後輪とマフラーとフロントサスペンションを外して乗用車の後部座席に押し込み、2人で代わる代わる運転しっぱなしで丸二日。プロライダーとそのスタッフが急な車両売買のために急遽選んだ方法ではありますが、もしかして狭いニッポン、普段からこれで間に合っちゃうんじゃないの?なんて。

#MOTOVAN で検索すれば、世界各地の素敵なトランスポーター写真を見ることができますよ。

ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!