現在はAFT: アメリカンフラットトラックと名乗る全米プロダートトラック選手権が "GNC = グランドナショナルチャンピオンシップ" という正式名だった最後のシーズン2016年、熟成進化7年目のカワサキ・ニンジャ650でついに年間チャンピオンを獲得した "マイルマスター" ブライアン・スミス。翌2017年は電撃的に加入したインディアンファクトリーチームの一員としてNo.1プレートを纏いますが、彼がカワサキ時代以前の2009年まで、ハーレーダビッドソンファクトリーカラーのレザースーツでXR750を走らせていたことは、最近のファンにはご存知ないかもしれません。今回は来期ファクトリーライダーとしてハーレーダビッドソンXG750Rのシートを選んだスミスの (実はほとんど知られていないかも?) 過去3度の来日・国内レース参戦の記録を振り返ってみましょう。

ブライアン初参戦は2005年11月20日もてぎダートトラック最終ラウンド。

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。1983年ミシガン州出身のブライアン・スミスの来日は、2005・2006・2007年の続けて3年・6レース。当時彼がレースで着用していた日本製レザースーツブランド・エスケーワイ / GREEDY Racing Leathers による全面的な支援のもと、本場アメリカからの特別招待選手として、各シーズンのツインリンクもてぎダートトラックレース最終戦に参加しました。

ブライアン・スミスといえばSHOEIイメージだけど実は2005年までArai。白色ベースのモロニーカラーが初々しいけれどGNCでは最高峰デビュー3年目にしてすでに年間ランキング5位の実力者。右頬の血液型シールがなんだか可笑しい。2007年の来日時に筆者がアテンドした時にはレース役員から参加誓約書に日本語で自署が必要と言われて大変困りました。近年ツルッ●ゲの彼ですがこの頃はヘルメット脱ぐとてっぺんモジャモジャです。

当時大きく排気量別 + スキル別3段階 (ノービス / エキスパートジュニア / エキスパート) とあった国内レースピラミッドのうち、ブライアンが毎年参加したのは当然ながらトップカテゴリー、エキスパート250とエキスパートオープンの2クラス。使用マシンは (最後の2007年オープンクラスを除いて) 毎年、我が国のダートトラック界では鉄スリッパー製作でもおなじみの、プロショップシミズが製作したカワサキKLX250ES (中林正広車) / ホンダCRF450R (芝崎桂車) それぞれのエンジンを搭載した、高張力鋼菅オリジナルフレームマシン。

SHIMIZU + KLX250ES
2005-11-20 撮影 斉藤淳一(FTX)

SHIMIZU + CRF450R
2005-11-20 撮影 斉藤淳一(FTX)

過去にもGNCライダーの来日参戦は数人ありましたが、それなりに整った良コンディションで行われたレースはおそらくこの時が初。当時国内最大級を誇った400mトラックは、上位ライダーの1周ラップタイムがおよそ17~18秒・平均車速は80km/h前後。ターン部にはほんのわずかなバンクを有しすり鉢状となるトラックです。

アメリカの中継映像みたいですけどココ栃木県ですからね。もうこのトラック存在しませんけど。
2005-11-20 撮影 斉藤淳一(FTX)

もちろんこのレースウィークが当地初走行となるブライアンは、特に非力な250cc車で、他の日本人レギュラーライダー誰とも違う独特の走行ライン・・・ターン奥深くまでエンジンパワーを減じることなく "突入" し、バンクを駆け下りるが如く立ち上がり加速・・・を披露。見る者に強烈なインパクトを放ちました。翌年以降のレースシーンに多大な影響を与えたことは言うまでもありません。

2005年レースリザルト
エキスパート250 (KLX250ES)
・タイムトライアル 8位 / 13台
・ヒートレース 2位 / 各組3台通過
・ファイナルレース 優勝 / ベストラップ17.553秒 平均車速82.04km/h
エキスパートオープン (CRF450R)
・タイムトライアル 1位 / 15台
・ヒートレース 1位 各組3台通過
・ファイナルレース 優勝 / ベストラップ17.499秒 平均車速82.29km/h

ほら。オレンジの綿ツナギに半キャップのトラックマーシャルが正真正銘ジャパンテイストです。
2005-11-20 撮影 斉藤淳一(FTX)

翌年はコンディション不良で無理くりのエキシビジョン・ナイトレースに。

今日のコラムのために記録をたぐっていて思い出しましたが、2006年は忌まわしき不作のシーズンでした。全5戦か6戦で予定されたもてぎダートトラックレースは度々ごとの降雨で成立はなんとわずか1戦・・・。ブライアン・スミスが来日したシーズン最終戦も前夜の雨でコンディション不良のため、彼の出走するエキスパート両クラスをナイトレースとして賞典外で開催する以外はすべてキャンセルに。そのため正式なレースリザルトも残されていない "幻のレース" となってしまいました。

撮影 斉藤淳一(FTX)

このシーズンからSHOEIヘルメットにスイッチしたブライアン・スミス、GNCではシーズン当初からシルバー / オレンジのファクトリーカラーのレザースを着用し、1番ケニー・クールベス、3番ジョー・コップ、21番ジャレッド・ミースとの4人組で "ハーレーレッキングクルー" と呼ばれる待遇となります。実際のところ本社直接契約のクールベスを除く3人のマシンとチームは、それぞれプライベーターですが、元GNCチャンピオンであるコップと、若手ライダーで最も勢いのある、ミースとスミスにファクトリーカラーを纏わせるアイディアは、なかなか秀逸だったのではないでしょうか。

SHIMIZU + KLX250ES
完全に隠れてますがブライアンの隣のグリッドからスタートするのは現在も第一線の74山下勝敏選手
撮影 斉藤淳一(FTX)

SHIMIZU + CRF450R
後続のナンバー88は単身渡米してGNCシングルスに何シーズンも挑戦を続けた鉄人・衛藤金治選手
撮影 斉藤淳一(FTX)

最後の来日2007年、ついにブライアン・スミスに土をつけたのは・・・?

ここまで2年続けて、エキスパート250 / エキスパートオープンの両クラスとも鉄フレームのいわゆる "フレーマー" で戦うことになったブライアン・スミスですが、当時主流となっていたDTX (市販モトクロッサーベースのレースマシン) での彼のライディングを是非とも見たい!というライダーたちのリクエストを受け、オープンカテゴリーはホンダCRF450RベースのDTX (深谷忠弘車) にマシンスイッチ。ナンバープレートは自前でミシガンから持参する約束だったんですが、フロント以外をお家に忘れたため市販品であまりカッコよくない仕様に仕上がっています。

SHIMIZU + KLX250ES
"速くはないけど乗っててとても楽しいマシン"と本人談。いずれまた走らせる機会を作りたいところです。
撮影 斉藤淳一(FTX)

SHIMIZU + KLX250ES
タンクとシートの位置関係がもしかして彼の好みでなかったのではないか、とこの写真を見て思いました。
撮影 斉藤淳一(FTX)

HONDA CRF450R
ターン進入手前の地点で100km/hくらいの速度のはずです。普通に走ってても壁からの距離は70cmくらい。
撮影 斉藤淳一(FTX)

HONDA CRF450R
ブライアンは身長5フィート4インチ(162.5cm)の小兵。ここまで腰落とすと右足はどうなっているのかなぁ。宿題。
撮影 斉藤淳一(FTX)

エキスパート250クラスでは、このシーズンから昇格し初めて相見えることとなった、CRF250R (DTX) を駆るナンバー70の大森雅俊選手がブライアン・スミスを決勝含むすべてのセッションで圧倒!市販車エンジンのKLX250ESが30馬力、当時最新鋭に近いCRF250Rは43馬力という小さくないマシン性能差はありますが、今日にいたる "スター大森伝説" 誕生の瞬間だった?のかもしれません。

撮影 斉藤淳一(FTX)

2007年レースリザルト
エキスパート250 (KLX250ES)
・タイムドプラクティス 2位 / 5台
・ヒートレース 2位
・ファイナルレース 2位 / 参考ベストラップ(大森雅俊)17.205秒 平均車速83.70km/h
エキスパートオープン (CRF450R)
・タイムドプラクティス 2位 / 12台
・ヒートレース 1位
・ファイナルレース 優勝 / ベストラップ16.695秒 平均車速86.25km/h

GNCライダーのブライアン・スミスがこの国のダートトラックレースを本気になって? (全力ではないかもだけど周りは必死でかかってくるし手は全く抜いてない) 戦った最新のこの日が、すでに今から12年前のシーズンだというのはなんとも感慨深いものです。しかしあの頃から現場に身を置き続けていることはやはり今日の我々の糧になっているはず。来シーズンも張り切って参りましょう!

次週は引き続きブライアン・スミスのハーレーファクトリー加入とXG750Rにまつわるアレコレを掘り下げてみたいと考えています。ではまた金曜の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!