1,600mくらいの競馬場で競う "マイルレース" 、そのおよそ半分の "ハーフマイル" 、それらより小さなものをひとまとめに呼称した "ショートトラック" というざっくり距離 (大きさ) 別のオーバルトラック3タイプ、いずれかが主戦場となる左回り基調のダートトラック / フラットトラックレース。実はそれらに加え例外的に、前ブレーキを装着し、左回りオーバルにジャンプと右コーナーが最低1つずつ追加される "TTレース" という形態があります。本日は競技の本場アメリカで、最も歴史ある常設TTトラックに注目し、このスペシャルステージを得意とした名選手の走りで研究しましょう!

イリノイ州ピオリア・年に数日しか開かない "伝統の常設TTトラック"

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。1931年、イリノイ州第5の都市に誕生したPMC: ピオリア・モーターサイクル・クラブの管理するこのTT専用トラックは、インフィールド長手方向に小川を抱くなだらかな自然地形の中にあり、観客は谷底を見下ろすような形でトラックサイドを囲むことができる、大変美しい見事なレース場です。

全米プロダートトラック選手権では1947年から毎年、ここでのTT戦が組み込まれます。現在はAFTの1戦を除けば、このトラックでは、ローカルレースでの使用が年1回か多くても2回あるのみ。普段は公開すらされない文字通り大変プレミアムなステージです。

戦前の1930年代にスプリングフィールド・マイルでの年一回開催からスタートし、現代のAFT: American Flat Trackシリーズに至る全米選手権のヒストリーの中でも、実に70回超という最多開催を誇る伝統的な会場として知られています。

一般的なオーバルトラックの縦横比よりストレート部が長い (ターン半径が小さい) 独特のプロポーションで、約200m一直線のホームストレッチ (ハーフマイルオーバルと同等) に対し、バックストレッチにはこの会場の二つの特徴、 "TTジャンプ" と呼ばれるなだらかな・・・しかしスロットル全開からの離陸では飛距離100フィート以上 = 30mオーバーにも達する・・・高低差と、その大ジャンプからの下り坂着地直後の右への切り返し "ライトハンダー" がライダーを待ち構えます。

毎年ほんの数日しか稼働しないこの贅沢なTTトラックを、競技の場として仕立て上げるため、全米屈指とも称される整備技術で陰に日向に支えるのは、ここピオリアに本拠地を構える世界最大の建設機械メイカー "キャタピラー" が誇る本社デモンストレーションチーム。古くからPMCメンバーに同社の社員も多かったことから関係が深く、製品プロモーションの場としても大いに好都合であることから、大型重機を多数投入し何日もかけてその日のための舞台を作り上げる重要な存在です。

"プリンス of ピオリア" が語る同地TT戦・通算13勝への基本アプローチ。

では続いて本日のメインディッシュ、1986、1988〜1995、1998〜2001年まで、実に13回こちらの全米選手権TT戦で優勝し "プリンス of ピオリア" と称された名選手クリス・カーのオンボード映像をご覧いただきましょう。

ちなみにピオリアTT常勝イメージの彼のお株を奪ったライダーとは、ババ・ショバート(1987年)、アンディ・トレッサー(1996年)、ジョー・コップ(1997年)、ニッキー・ヘイデン(2002年)、JR. シュナベル(2003年) が各1勝。プリンスの強さが際立ちます。

2004年以降は昨年までAFT17: ヘンリー・ワイルスが毎年優勝し、通算14勝でクリスの記録をついに抜いたため、彼は "キング of ピオリア" と呼ばれることになりました。

Chris Carr Helmet Cam at the Peoria TT

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この動画はよりジャンプの能力を含め運動性の高い、現代的なモトクロッサーベースのDTXマシン (ジャレッド・ミース車かな) でのデモ走行ですが、クリスが勝ちまくった黄金期のマシンは600cc "フレーマー" 。

全米選手権ルール上の最低重量は99kg・高度なチューニングにより最高出力80馬力以上とも言われるロータックス600ccフレーマー (サスペンションストローク量はロードマシン程度)を全開大ジャンプで30m飛ばすテクニックは、当然のことながらちょっと並大抵ではありません。

当時のクリス自身の談話を元に、600cc時代の彼の基本走法を再構成します。

①スタート位置 / フィニッシュラインから2速でスタートし、3速から4速に上げて (シフトアップはスロットルちょい戻しのみでクラッチレバー触らず) 加速し、前後ブレーキを使いながらターン1進入。

②ターン2 (立ち上がり) 手前からスロットル全開。ジャンプ飛び出しまで4速のまま。

③4速全開で "TTジャンプ" 。100フィート = 30m飛ぶ。

④着地後の "ライトハンダー" で少々スロットルを戻し、ターン3手前では軽く前後ブレーキング。

⑤ターン4 (立ち上がり) から加速し吹け切る前にトップギア5速にアップ。ターン1手前で4速に落とし前後ブレーキング。後は繰り返し。

クリスはギアアップもダウンもクラッチ全く切らない派。ライトハンダー後に3速まで落とすライダーやクラッチ多用派もいるはずです。この辺りはリズムの作り方で好みが分かれるところでしょう。

ちなみにロータックス600cc、関係者によればこちらでの決勝25周 (周長およそ800m) のレースでは5L近くの燃料を消費するらしいので、その燃費はおおよそ4km/1Lくらいみたいですね。

2012 Bell Peoria TT Video.mov

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こちらはその後のヘンリー・ワイルス常勝期。2010年代・最高峰450ccDTX時代からの映像です。

時は巡り、再び2気筒750ccマシンがTTジャンプでポンポン空を飛ぶ?

数年前からAFTとして再構成されることとなった全米プロダートトラック選手権。トップカテゴリーが全戦2気筒750cc車で競われる関係上、100馬力超の (しかも軽量な車体の) マシンによるTTジャンプでの "飛び過ぎ注意" のため、そのトラックデザインには幾度となく手が加えられています。

飛び出し速度と飛距離を抑えることを優先しステップアップ(2段ジャンプ)に更新して不評だった2018シーズン。

来期のピオリアTTが一体どんな表情で選手たちを待ち受けるのか、時にはレーストラックの作り手目線?で注目してみるのも面白いかもしれませんね。

伝統的なTTトラック形状をそのまま図案化したPMCのロゴマーク。当然なんだけど拘りと自信が堪らない!

ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!