専用マシン = 高度にチューニング・モディファイされた時代ごとの先鋭的レーシングマシンで戦う様式を、ダートトラックというコンペティションスポーツの最前線と位置づけるならば、今日ご紹介するストーリーはそれとは対となったある種の極北。この "2気筒750cc以上の鈍重なストリートバイクのみによるダートトラックレース" こそ、近年人気を増す "フーリガン" と呼ばれるカテゴリーです。

昨日今日の話ではない"Run What Ya Brung = あるもんもってこい精神"。

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。フーリガン・・・一般的にはサッカー試合を口実にした暴徒の事を指す、万国共通ネガティブな名称ですが、ダートトラックレーシングでの "フーリガンカテゴリー" とは、その本来の意味から連想して単に "暴れ者" とか "粗暴" といったフレーバーのみを頂戴したもの。

ここ数年で急速にスポットライトを浴び、いかにもつい最近生み出された目新しいムーブメントかのような印象もありますが、ストリートバイクやチョッパーによる "余興的な参加型レースカテゴリー" そのものの歴史は、遡ること1960年代からすでに始まっていたと言われます。

1970年公開のアメリカ映画 "C.C. and Company" (邦題は"C.C.ライダー") のクライマックスシーンでは、元フットボール選手で主演のジョー・ネイマスと、対立する暴走族リーダー・ムーンとの "ノーヘル普段着チョッパー同士" による陸上競技場?かフットボール場?での生命を賭けたオーバルトラック対決を見ることができます。

通年でストリートライディングを楽しめる温暖な気候と、西海岸ならではのオープンマインドな地域性で知られる南カリフォルニア。1957年から1990年までロスアンジェルス近郊にあった伝説的ハーフマイル・ダートトラック "アスコット・レースウェイ" では、ほぼ毎週末になんらかレースが行われていましたが、二輪ダートトラックだけでなく四輪ミジェットカー / ストックカーなどでも、"Run What Ya Brung" と呼ばれる (観客による) 持ち寄り参加型レースを、ノービス・プロアマ・プロクラスなど本気のレースの合間に行う習わしが、その黎明期からあったとの記録も残されています。

筆者が南カリフォルニアに足を運んだ2009年にも、オレンジカウンティ・コスタメサで行われるスピードウェイ種目・・・アルコール燃料で走る高出力エンジンを搭載する (我が国のオートレーサーにも似た) 軽量で特殊なフォルムのマシンを用い、我がダートトラックレースと同じ左回りオーバルで競われる"似て非なる兄弟分的カテゴリー"・・・のレースイベント内で、 "ハーレーナイト" などと呼ばれる一般来場者参加型のストリートバイクそのままが走る、一種のフーリガンレースが大人気の余興として行われていました。観客は皆、バガーとかチョッパーとか最低でも200kgオーバーの巨体がドッカーン!とひっくり返るところを見て盛り上がりたいだけという説もありますけど・・・。

Harley, crash and fire during the 2012 Harley Races at Costa Mesa Speedway

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現地でこの手のイベントに度々参加するベテランライダーに話を聞いたところによれば、コスタメサスピードウェイをはじめ、ソノマやヴェンチュラで開催されるローカルダートトラックレースの1カテゴリーとしても "フーリガン" は年何戦もが開催され、このクラス専門で走るライダーも実は多く存在する、隠れた人気カテゴリーだとのことでした。

撮影: 中尾省吾

こちらLAカウンティ・カルヴァーシティにお住まいのJ・ペイプさんは、ハーレーダビッドソンの初期型XR750やKR750でビンテージダートトラックを楽しみつつ、オンボロ (にしか見えない) チョッパーレーサーを駆って各地のフーリガンクラスで暴れ回っていた生粋のアマチュアダートトラッカー。10年前にお会いした当時は高級住宅のプールに湧いたボウフラを火炎放射器で駆除する(!)お仕事をされていまして、ご自宅に伺ったらビール飲みながらフーリガン・ショートトラックの映像を延々見せていただく素敵な一夜となりました。汚い走りのライバルたちへの悪態が止まりません。

今注目を集めるフーリガン。ローコストでこのスポーツを広く民のものに。

さて現代のフーリガンレースには、全米各地を回るスケールの2つのメジャーな "ネイションワイドシリーズ" が存在します。

そのひとつは著名なカスタムビルダーのローランド・サンズ (パフォーマンスマシン社長のご子息で元AMA・GP125ロードレーサー) が中心となってオーガナイズし、今年のXゲームスでは正式種目として全米TV放映もなされた "SHNC: スーパーフーリガン・ナショナルチャンピオンシップ" 。

SUPER HOOLIGAN NATIONAL CHAMPIONSHIP - RSD

www.rolandsands.com

もうひとつは元全米プロダートトラック選手権ライダーのジェレミー・ドゥルイターが主催する "GNHC: グランドナショナル・フーリガン・チャンピオンシップ" です。

この2つのレース団体、マシンレギュレーションはほぼ同一で、コンペティターは大幅な仕様変更なしにいずれのシリーズにも参戦可能な工夫がなされています。それぞれイベントプロモーションの手法や使用するトラックに個性的な魅力があり、フーリガンカテゴリー全体の盛り上がりにも期待した団体同士の (レース外を含めた) 健全で激しい舌戦?切磋琢磨?も、現在の同カテゴリー人気の高まりの大きな理由のひとつでしょう。

マシンレギュレーション = アバレモノたちの約束事。

以下に具体的な車両規定をかいつまんでご説明しましょう。

車体フレーム
・750ccかそれ以上の排気量の量産ストリートバイクのノーマルフレームであること。
・"切った貼った"のジオメトリー(車体姿勢)変更は不可。
・"切った張った"のキャスター角変更は不可。
・スイングアーム取り付け位置の変更不可。
・"切った貼った"はダメでもボルトオンで組み付けられるものはほぼ可。

エンジン
・750ccかそれ以上の2気筒量産ストリートバイクのエンジンであること
・排気量変更・チューニングはオープン(自由にやってよし)。

タイヤ
・19インチダートトラックコンペティションタイヤまたは17インチレインタイヤのみ使用可能

ブレーキ
・オーバルレースではフロントブレーキの取り外し必須
・TT戦、及びアスファルトでのスーパーモト戦ではフロントブレーキ"取り付け可"

かいつまんで・・・と言いましたけど、実際文字になっている車両規定はほぼこれがすべて。他には安全面での技術仕様や服装の規定があるくらいです。レースは400m以下のショートトラック・オーバルが中心ですが、時にはジャンプと右ターンありのTT形式やアスファルトでのスーパーモト形式で行われることになるイベントもあり、参加するマシンやライダーのバックグラウンドも含め、その競技風景はおおらかでバラエティに富んだものです。

サンタ・アナの著名カスタムビルダー・NOISE CYCLESのT・ボーンが手がけた、ハーレーダビッドソン・ストリート750 (XG750) のフーリガンレーサー。前後19インチ化とレギュレーションの範囲での車体姿勢変更を施し、ライダーの自由度と運動性能を高めるためKTM製モトクロッサーのボディパーツを選ぶと言う合目的発想は、まさにレーシングマシンそのもの。

これはつい先日SNSの売りたし書いたし欄で見かけた、フーリガンレーサーたちに大人気のステムシャフトKIT。車体フレームを切断・溶接するなどしてのキャスター角変更は認められないため、ヘッドアングルに対してステムシャフトのみをより立てて装着するための特殊形状。2つのビッグシリーズ参加の上位マシンには皆装着済みとのこと。

そしてこちらはそのキャスター角変更シャフトを組んだスポーツスター。フロントフォークが事故車よろしくおっ立って、フューエルタンクやシートカウルもスポーツに適した位置に正しく配置。街を行く "ストリートトラッカースタイル" とは明らかに違う、競技に特化した凄み・風格が漂います。

プロ選手権とはケタの違う、予算に激しく限りあるプライベーターやアマチュアライダーを広くターゲットとするため、天井知らずのコストはかけさせない抑制策も当然のことながら、やるべきところは全てやる、合理性とパフォーマンスの追求とのバランスが非常に好ましいことのように感じます。

日本は小よく大を制すが美徳?コチトラさらなる重量級を振り回す筋肉系。

我が国では古くから、小排気量車で峠道のリッタースーパースポーツ車を追い回す!みたいな "柔よく剛を制す" とか "小兵が大男を知恵と勇気でやっつける" 系の一寸法師的ストーリーがなぜか過大にもてはやされる感がありますが、筆者ハヤシの確信として、これはダートトラックレーシングという競技にはまるで当てはまりません。今日ここで、キッパリと申し上げます。

学校の校庭くらいの、まぁせいぜい200mクラスのショートトラックを仮定します。このスポーツの基本的な動作は、もちろん小排気量車で学ぶ方が合理的です。最高速は得られない代わりに制御が困難なほどのパワーもないため、転倒やコースアウト、負傷のリスクもより少なくなるでしょう。

1,600mの競馬場で行われる1マイルレースではなくショートトラックであれば、ですが、例えば100ccと450ccの2台のダートトラックマシンを用意し、同じ競技者が同条件でタイム計測を行った場合、多くの場面では100ccマシンの方がスムーズに好タイムを維持して走ることができるはずです。100ccマシンに比べ、エンジン出力は600%近く、それでいて車重は130%程度しかない450ccマシンは、扱うだけでも、スロットル全開状態を制御するのも高度なスキルを要求してくるのです。ましてそれに乗ってバーtoバーの超接近戦をターンごとに演じるのですから・・・ね。

熟練の、レースで上位を走るような450ccライダーは皆すべからく非力な小排気量車の扱いにも長けているはず (・・・だよね?) ですが、100cc車をスムーズに無駄なく速く走らせるライダーすべてが、即450ccを華麗に振り回すか・・・というと、絶対にそんなことはありません。

Harley-Davidson Hooligan Racing: FULL BROADCAST | X Games Minneapolis 2019

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今アメリカで人気のフーリガン・カテゴリーは、出力こそハーレーXR750やインディアンFTR750といったレース専用2気筒車に数段劣るわけですが、車重は下手すれば200%近く。それをこの小さなショートトラックでガシャンガシャンと文字通り火花を散らして戦わせるわけですから、もしかすると大和魂とはまた別種の、知恵と勇気と根性と運動能力が結構要求される匂いもプンプンしますね。

小排気量車のタマ数少ないあの国ならではの楽しみ方・フォーマットとも言えるのかもしれませんが、いつか?そのうち?いや腕力や体力がまだもう少し持続するだろう近い将来に!個人的にもトライしてみたいなんだか魅力的なカテゴリーです。気になったって皆さん、ご一緒にどうですか?

ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!