ホンダにまつわる豆知識を紹介する当連載第18回目。廃盤になって久しい今も、根強い人気を誇るのが"ハンターカブ"の愛称で知られるホンダCT110です。今回は1981年に販売されたCT110国内仕様にまつわるトリビアを紹介いたします。

そもそもCT110は、"ハンターカブ"ではないのです!?

CT110は日本ではハンターカブ、という名称が浸透しています。でも、さかのぼること1962年、北米市場で販売されたCA100TとC100Tにはこのハンターカブという名が使われたりもしましたが、その後は「トレール」の名前が使われるのが北米向けCT系の常でした。

1965年カタログに掲載された、トレール90 CT200。OHV50/55ccのC100/105系では、重たいガイジンさんにはパワー不足ということで、1960年代半ばにはOHV90ccのC200/CM90系をベースとするCT200が登場します。

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そもそも今でも日本で一般的に使われている"トレール"という名前は、ヤマハが1960年代末の大ヒット作の国内向けDT1などに使ったことで、公道用オン・オフ用バイクの"デュアルパーパスを指す言葉として定着したものです。しかし、そもそもアメリカなどの輸出市場では、"トレール"の名はヤマハ車に限らず、山林などの獣道で使う小型車に使われることが慣例化していました。

それはさておき? 50/55ccのスーパーカブをベースにする"ハンターカブ"の後継・・・90ccになってからのモデルは"ハンターカブ"とは称することなく、車名としても"トレール"を使っておりました。ですのでCT110も同様に、"ハンターカブ"が車名に使われることはありませんでした。

結論としては、CT110は初期型だけ副変速機がなかったのです

ホンダCT110フリーク以外の方は、そもそも"副変速機"ってなんじゃらほい? と思われるでしょうから、ホンダがCT系に用いた副変速機についてちょっと解説させていただきます。

初代ホンダ製トレールバイクの1962年型CA100T(C100T)からしばらくの間、ホンダは歯数の異なるリアスプロケットを使うことで、登坂能力などを調整する手法を用いていました。

50ccのC100Tの図説。メッチャ大きいリアスプロケットに注目してください。

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初期のスーパーカブを母体とするトレールバイクは、大小2種類のリアスプロケットにチェーンをかけ変えることで最終減速比を調整する方式でしたが、ぶっちゃけこれの作業って消費者目線では超面倒なものでした。

ホンダCT90の副変速機の構成部品です。

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そこで、1967年途中のフレームナンバー122551以降からのCT90以降、減速比のハイ/ロー切り替えがレバーの切り替えで簡単に行える副変速機をCTシリーズは装備することになります。この仕様は1979年のCT90最終型まで受け継がれました。その仕組みは、ドライブスプロケットをスリーブギア支持にして、スプロケット外側の4枚のギヤを使った場合はローレンジ、メインシャフト上の各ギアを直結にした場合はハイレンジになる・・・というものです。

アグリカルチャーバイク=農業用として使われることも多かったホンダCTシリーズは、ドロドロのところでの登坂や、急坂を降りるときに極ローギアが求められることも多かったワケです。そんな特殊な用途で使われるバイクとして、長年輸出市場で支持されたCT90の後継モデル・・・排気量をアップしたCT110が登場したのは1980年のことでした。

1981年型輸出市場向けホンダCT110。1980年に登場したCT110は、21世紀の時代にも生き残るロングセラーになりました。

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非常に興味深いのは1980年モデルの初代CT110は、CT90時代に採用されていた副変速機が採用されていなかったことです。

ぶっちゃけ、なぜ初代CT110(K0)が長年採用された副変速機を採用しなかったのか・・・は不明です(ごめんなさい)。推察するに、排気量が上がったことによるトルクアップで、登坂能力などを考慮すると副変速機はいらない、と開発陣が考えたのか・・・? もしくは、そもそもCT90時代から副変速機はそんなに使われていなかったので、コスト的に廃止した方が販売価格を安くできる・・・と開発陣が考えたのか? 真相はわかりませんが、ともあれ初期型CT110には副変速機がなかったのです。

要するに、国内仕様のCT110は"初期型"なのです

国内仕様のCT110が発売されたのは、1981年の10月1日でした。当時は輸出向け1980年モデルのCT110のことを詳しく報じる国内メディアはなく、そして国内市場に投入されたCT110には副変速機がありませんでした。

そんな背景があったためでしょうか? 輸出市場向けにある副変速機が国内仕様には採用されなかったという"迷信"が、その後も日本国内に定着することになりました。なお輸出向け1981年型CT110(K1)からは副変速機が復活しています。

輸出向け1980年型ホンダCT110のマニュアルより。

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なぜ副変速機が再び採用されたのか・・・についても真実は不明ですが(すみません)、CT110にもやっぱり副変速機は必要・・・という市場調査から判断して1981年型から復活させた、ということなのかもしれません。それはさておき、1981年に国内販売されたCT110は、1980年型の仕様に、1974年型CT90以来採用されていた車体左側のサブタンクを省略したもの・・・というのが実のところなのかと思われます。

多くの人の知るとおり、国内向けCT110は一代限りで廃盤になりました。つまり当時、そんなに日本の市場ではバカ受けしなかったワケですね。そんなに数が出ないであろうCT110を国内市場に投入した理由は定かでないですが、当時はホンダとヤマハが国内シェア争いで激しく戦っていた"HY戦争"時代だったことが、大きく影響しているのではないかと推察されます。

当時ホンダは国内市場で、シルクロード(250cc)とイーハトーブ(125cc)を"トレッキングバイク"というジャンル分けで販売していました。それに続くトレッキングバイク第3段としてCT110は販売されたのですが、ヤマハとのシェア争いを制するためにとにかく1機種でも多くの新商品を投入したい! というホンダ社内事情が本来輸出向けだったCT110の、国内販売を決行した背景にはあったのかもしれません・・・。

・・・と、推察ばかりの話で恐縮ですが(苦笑)、国内向けCT110だけが副変速機を採用しなかったというのが誤りなのは史実として確かなので、今後この手の記事をお読みになるときはそのことを思い出していただければと思います。