それはダートトラックレーシングに纏わるありとあらゆる場面で密やかにさりげなく活躍し、本格的に競技に取り組むライダーならおそらくクルマか工具箱の片隅に放り込んであるはずのもの。血と汗と涙を弾き返し、傷ついたマシンと身体にそっと寄り添う・・・とか、詩的に勿体つけるほどの重要アイテムではありませんが、本日は鈍く銀色に輝き、あるいは様々な蛍光色で我々のレーストラックをほんのちょこっとだけ彩る、レーサーズテープこと "ダクト・テープ" のベタベタしたお話です。

単に"布ガムテ"と侮るなかれ。アメリカンDIY伝統・三種の神器のひとつ!

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。帆布 (duck生地) に樹脂類を染み込ませ、防食・耐水に優れる高粘着質のダクトテープ (の原形) が誕生したのは今を遥か1900年代初頭のこと。第二次世界大戦中には弾薬箱の防水密閉などハードな用途のため格段に発展。世の多くの発明品同様、軍用アイテムとして機能を鍛え上げられた、まさに100年選手の日用品です。"ダックテープ" や "パワーテープ" などの商品名でご存知の方もいらっしゃるかもしれません。

クリント・イーストウッド監督の2008年の映画 "グラン・トリノ" では、彼自身が演じる元ブルーカラーの典型的なアメリカン頑固オヤジが、"この国の男なら、ダクトテープとWD-40 (潤滑剤) とパイプレンチさえあれば、家中のほとんどのモノは直せるんだ" と伝統の知恵を若い人へと授ける名シーンがあります。古き良きアメリカの香り色濃く残るダートトラックレースシーンで、今でもこの "大いなる日用品" が活躍するさまは、ある意味でちょっと印象的なことだと言えるでしょう。

"アメリカン・エンジニアリング" 概念図。動く or 動かない・動いてほしい or 動かないでほしい・状況に応じて潤滑剤WD-40とダクト・テープを用いて適宜対処するモンダ!とのこと。ホボ冗談か?いやだいぶ本気?

2輪ロードレースの世界でハングオフスタイル、いわゆるヒザスリ・コーナーリング手法を定着させた立役者は、ヤーノ・サーリネンやケニー・ロバーツ・シニアらのジェネレーションだと言われていますが、まさにその黎明期、硬質樹脂製のニーパック・スライダー = バンクセンサーが登場する以前ということですが、レザースーツの膝部分に何十層にも厚く貼り重ねられた銀色のダクトテープが、その役割を担っていました。

さらに以前からレースシーンの様々な場面でこの強靭な日用品は重宝されました。上の写真は1960年代末の "ON ANY SUNDAY" 撮影中のヒトコマですが、ゲイリー・ニクソンのヘルメットに取り付けられた (当時としては) 超小型のカメラアッセンブリは、ダクトテープによって固定されています。

日本での所謂 "布ガムテープ" もほとんど同じ成り立ちですが、一見してアメリカ製ダクトテープはその厚みや粘着力・耐久性が雲泥の差。コラム冒頭写真のように、クッショントラックで前から飛んでくる "ルースト" から車体を護るため、またホットシューストラップの弛み止め (と車体への巻き込み防止) に、あるいは破損したカウリング類の応急処置やレザースーツの綻びをカバーするためなどなど、今日でもダートトラックレースの現場ではありとあらゆる用途で使われます。若いライダーたちが目に鮮やかな蛍光色を選んで個性を主張する微笑ましい場面も時に見る事ができるでしょう。

日常〜レーストラック〜宇宙まで?諦めずになんでも直し続行する"執念"。

というわけでDIY精神の国アメリカでは、ちょっとした怪我の手当てにもダクトテープが登場。出血はそこらのペーパータオルあたりで抑え、とりあえず銀色のアレでグルグル巻きに。あるいは固定が必要な場面でギプス代わりにも。救急車も基本的に有料で医療費すべてが日本に比してベラボー高いという切実なお家事情ももちろんありますが・・・恐るべきバイタリティ。

アメリカンモータースポーツ界では、こちらのSUNOCO・ペンスキーチームのフェラーリ512M "ダクトテープ・スペシャル" が有名です。1971年デイトナ24時間レースのスタート早々にクラッシュし、マシン前部と足回りに大ダメージを負ったマーク・ドナヒュー / デイヴィッド・ホッブス車は、ご覧のようなダクトテープまみれの姿でなんとかレースに復帰。チェッカーを受けるその時まで決して諦めないハングリー精神・レーシングスピリットを象徴するこちらのマシンは、現在でもこのままの姿でミニチュアモデルが商品化され、品薄となるほどの人気ぶりだそうです。

また、現時点では月においての最後の有人活動となっているアポロ17号月面探索車は、ミッション半ばでその泥除け部を破損。書類バインダーと銀色のアレで必要十分な応急処置を施されました。酸素タンクが爆発した有名なアポロ13号の地球帰還ミッションでも、船内の生命活動を左右する空気清浄機を即席で誂える場面などで活躍したダクトテープは、一部から "NASA公認の伝統的修復技法" と言われているとか?いないとか?

逞しい "生存本能" がスポーツの現場で "最後の一踏ん張り" を生むのかも?

ストーリーは大きく逸脱して宇宙まで行っちゃいましたけど (そして今日は帰ってきません) いかがでしたか? 職場の机や工具箱、我が家にもダクトテープひとつ、ちょっと欲しくなっちゃいました?

近頃のmotoGPスタイル化を狙うAFT: アメリカンフラットトラックの現場 (運営サイド) からはあんまり良く思われていないようで、あちらの業界では近々ダクトテープ禁止令でも出るんじゃないか、まぁでも代用品ないしそこはヘーキでしょ、などと与太話が飛び交ったりしていますが、その辺のキナ臭い詳しい話はまた今度。

ペラッペラの日本製の布ガムテだと、この雰囲気はもちろんのこと、実用性能も全然イマイチなんですよね。うーん、なんて言いますか、"神は細部に宿る" というやつでしょうか。ご興味ある方は実際レースシーンでどんな使われ方をしているか、チェックされるのも新たな楽しみ方のひとつかと。

ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!