タイヤ痕 ( 英語ではブルーグルーヴ ) が黒々光る "ハードパック" からホイールが埋まるほどの "クッション" まで、あるいは1周10秒足らずの100mトラックから最高速200km/h超えの1600mトラックまで。このスポーツの戦いの場となるオーバルトラックは、実に多彩な表情を見せます。本日は近ごろ筆者がなんとなくモヤモヤと考える、レーストラック絡みのあれこれについてお話しましょう!

カチカチもザクザクも、どっちも巧みに走れないと。

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。タイヤラバーが擦り込まれたように真っ黒く変色したハードパックの、いわゆるグルーヴ路面では、いかにブルーグルーヴ上から外れず正確にマシンを操るか、あるいはオーバーテイクのためにやむなくそのゾーンを逸脱してトライする場合には、どうやってパワーロスを抑えいち早く最速ラインへと復帰するか、緻密で的確なスロットルワークと繊細なマシンコントロールが必要になります。

転圧によって締め固められない、タイヤ後方に尾を引くように土煙 (ルースト) のあがるクッショントラックは、路面の摩擦抵抗が大きいため、スロットルを開け続けて駆動力をより長くキープしなければ、マシンの運動エネルギーが足りず、ライダーが望んだスライディングスピードを維持し旋回することが難しくなります。ハイサイド転倒を引き起こさないよう巧みにマシンのバランスを取りながら、カチっと止まるところまでワイドオープン!あるいは先に全開しちゃってからバランスは後回し・・・ってのもあるかな?とにかくメリハリの効いた豪快な (ように見える) スタイルが必須。

大雑把に言えばダートトラックレーシングの路面というものはカチカチ 〜 ザクザク間のどこかの一段階です。レーストラックの立地や使われる土の組成によりおおよその性質は決まるものの、季節や湿度、撒水やトラックグルーミングの方向性によって、ある一日であってさえ、そのキャラクターは刻々と変化していくのです。

コンディションを問わずより速く正確に走ること・・・もちろんオイル撒いた鉄板みたいなツルツルとか沼みたいなグチャグチャの泥濘なんか論外 (走行不能) ですけど・・・には、路面への順応力と学習能力を高め、状況に対応するライディングスキルを身につけておかなければ実現できません。

その意味では1つのトラックに通いつめ、他の土を知ろうとしないのは誤りです。ひとたびトラック特性ごとに合わせるテクニックを知れば、各地のトラックで "違い" を攻略することには比較的容易に取り組めるようになります。これもシンプルなフォーマットのオーバルレーシングならではです。

下見もしないでよく乗れるよね。

朝一番でレーストラックに到着し、クルマからマシンを下ろして用意が整ったらいきなり走り出す。あるいは撒水直後にすぐトラックINする。けれども結局は最低数周?様子見走行をすることになるんじゃないですか?ならば乗り始める前にトラックを一周でも歩いて入念にチェックし、当日の路面の凸凹荒れ具合、湿り気や浮き砂など、状況を確認しておくのはどうでしょうか?そういうことならトラックINしていきなり全開で走れませんか?

一日の走行の最初に、ひとつめのターンへと全開で突っ込んでフツーに走れるようにすることは、走行前の目視の分析や想像と実際の身体感覚を近づける、貴重なトレーニングとなります。ましてレースでは、様子見走行・完熟走行の時間など充分に与えられはしません。事前の準備と観察を入念に、そして走行直前にはコンセントレーションを必要に応じて高め、入場したら常にいきなりぶっぱなす!これが筆者ハヤシの考える、本場ではローカルでも当たり前の "ストロング・スタイル" です。

短距離が不得意なくせにデカいところでは高速接近戦、できる?

200m以下のトラックでのターン進入直前の最高速は、排気量によって50〜70km/hくらいですが、400m級でのそれはおよそ100km/hと言われています。例えばのマイナートラブル、もしその速度で他のライダーとハンドル同士が絡み合えば・・・?場合によっては指の1本や2本はちょっと諦めることになるかもしれません。過去に国内400mでのレース中に実際あったちょっと怖い話です。

3ケタ以上の速度で走る高速ビッグオーバルへの憧れは皆さんおありでしょうが、1クラッシュで受ける衝撃は国内に現存する200m級の比ではありません。まして複数台が絡めば・・・ね。厳しく言って、ここ10年ほどの間に始めた方は、もう少し巧くなっていただかないとまだまだ危ないかな。

より大きく速度域の高いトラックに向け、鍛錬を重ねるのならば、まずは小さなトラックでの肉弾戦・・・ドツキ合うのは "目的" ではなく、それでもスポーツとして成立させられる "寸止め精度" が重要・・・の技術を磨く必要があります。そしてどんな小さなトラックでも抜きつ抜かれつができるように。息つく間もない小トラックでそれが可能になれば、ビッグトラック恐るるに足らず、です。

一皮剥けた走りを獲得する決め手は "プロレス式特訓" 。

スキルアップを目的とした鍛錬には小トラックでの肉弾戦が有効、と先ほど書きました。速度域が低く、転倒にまつわる様々なリスクがより少ない場面で、抜きつ抜かれつを繰り返すことで上達する。これはやはり勝ち負け、という黄金色のニンジンをぶら下げた状態で、各自が真剣に走り込む場面でこそ伸びるのではないかと考えるところです。全員本気の雰囲気の中でしか実力はついてこない。

筆者ハヤシが若かりし頃 (今もまだ30代ですけど) レースで確実に上位を走る多くのライダーは、ライバル・兼・練習相手とも呼べる、良きパートナーがいる選手が多かったように記憶しています。お互い左サイドのナンバープレートには前輪を擦り付けるもんで真っ黒。時にはスリッパごと左足をタイヤで踏みつけたり?左尻を擦って火傷させてみたり?イチゲンさん同士ではおそらく笑いながら簡単に試せることではありませんが、フルコンタクト・スポーツとしての安全な距離感というものを、練習やレースのすべての場面で、我々はそれぞれ日々探り続けていたものです。

最小スペースで競技が成立するカテゴリー、という前向きな考え方。

土の競馬場の数が少なく、四輪用ダートオーバルが文化として存在せず、ロデオアリーナや闘牛場もない我が国で、今以上の規模の広大なダートオーバル、それも二輪専用の場を新たに作り維持するには、おそらく途方もない労力が必要でしょう (筆者は絶対無理とも不要とも思ってはいませんが) 。

一般道といえばどこまでもアスファルトに覆われ、ダートロードの田舎道も少ないこの国では、そのビッグ・オーバルトラックを鏡のように平らに整地する機材を揃えることも容易ではありません。

では視点を変えて、このスポーツはどれほど狭いスペースで競い合うことができるだろうかと考えると、逆にひとつの勝機があるのではないでしょうか?他カテゴリーのマシンでは複数台で走ることもままならない小スペースでも、ダートトラックの横滑り走法は競い合うことができるはずですよ。

今新しく加わったライダーに必要なトレーニングとして、あるいはショーとしても、この "最小スペースでの競技フォーマット" をこれから整えていきたい、と筆者ハヤシは考えているところです。

自ら競って10年 → 主催して8年。ここからは再び "原点回帰" を模索かな?

8年前、競技会という形式で、誰もが勝つことを意図して集い走るレースの場こそ、ライダーとシーンを育てる一番の機会、という考えでスタートした筆者主宰のレース団体FEVHOTS。この間新たに我々の仲間に加わってくださった方、決して少なくはありませんが、まだまだ充分でもありません。

勤勉な我が国の国民性を理解するに、練習・練習・練習の繰り返しからよほど確かな手応えを感じるまでは、なかなかシリアスな競争モードには移行していただけない。これはよく分かります。しかしダートトラックは・・・異論はもちろん認めますが・・・筆者考えるにレースこそが一番面白い。バー to バー・エルボー to エルボーの、他種目では考えにくいほどのゾクゾクする接近戦。しかもそれはイベントとして様々な面での合理性も高いのです。

というわけでこの夏は、来年2020シーズンに向け、新たなフレームデザインを試みている最中です。25週後の当コラム第100回目までには、その全容をお知らせできるかな、とも考えていますが。

ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!