ダートトラックレーシングの魅力、と一言でいっても様々な面がありますが、一見荒々しく見えるライディングアクションとはコインの表裏のように、モーターサイクル全般の標準に照らし合わせると、驚くほど華奢で繊細な専用マシンの存在感もそのひとつです。とはいえ本場アメリカならいざ知らず、我が国ではそれら本格的な "フレーマー" は未だ数えるほどしか走っていないのが現実。というわけなので、独自の国産レーシングフレーム、これから自分たちで作り始める事にしましたよ。

独創性より優先すべき経験則。機能的なキモとツボを押さえること。

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。冒頭写真のローリングシャシー、いわゆるエンジンレス状態のマシンは、筆者所有の水冷450ccエンジン搭載用C&Jフレーム。全米プロダートトラック選手権2016年チャンピオン、ブライアン・スミス選手がかつて乗っていたマシンを縁あって譲り受けたもので、今回のプロジェクトの要となる検体です。

我々が新造するレーシングフレームは、この由緒あるマシンの構成を入念に参照し、国内のトラック事情や使われ方、経験則を加味して形作っていくこととなります。機能に裏付けされたある種の完成形である手本から、見た目の奇抜さだけで離れようという意図はありません。まず最優先は要求される性能を高いレベルで満たすこと。オリジナリティはその先のどこかで、自然に滲み出るでしょう。

昨年の入梅前のころ、オーバーホールのためこの車両の搭載エンジンを下ろしたのを契機に、ほぼ1年をかけて、各部の構成・素材や特性の精査、本格的なライディングシーンと対照しながらフレームに要求されるキャラクターを見極める作業を行いました。その中にはアメリカのプロライダーや関係者たちへの長時間のインタビューも含まれます。それは、本場では当たり前のノウハウを、我が国の小さなレースシーンに適切に落とし込むための "リバースエンジニアリング" 的な分析作業でした。

骨格は作ります。仕上げて乗りこなす部分は各自でどうぞ、というスタイル。

我々がコンプリートマシン = 完成車を1台ずつ手作業で製作することに期待する方も少なからずおられるかもしれませんが、搭載するエンジンの選定にはじまり、車体各部の仕様の細かな違いなど、個体ごとのバリエーションが多くなればなるほど、モノの価格と手間は増してしまいます。

レースの現場では、いわゆるモノ作りビト = ビルダー、組み上げて調整する調教師 = チューナー、そして貪欲に勝ちを狙う乗り手 = ライダー、この三者が一体となって、ライバルより速く高いパフォーマンスをいつでも発揮するよう、万策を巡らせています。

このプロジェクトで我々は "フレームビルダー" としてのポジションにまずは軸足を置きます。具体的にはメインフレームとスイングアームを製作。前後サスペンションやホイール、フューエルタンクやシートカウルなどの選定はユーザーそれぞれに委ね・・・もちろん本場からのパーツ取り寄せのお手伝いはいくらでもしますけど・・・エンジンの搭載作業についても我々の意図を酌んでいただける各地の優秀なテクニシャン・チューナーと購入者が密なコンタクトを取り合い、進めていただくことになるでしょう。この役割の分担だけでも、1台完成までの時間が大幅に圧縮できるはずです。

日本独自の工夫、そしてちょっとだけお財布に優しいオプションも?

我々がお手本と定めたブライアン・スミス号には、43mmのヤマハYZF-R6用?正立フロントサスペンションと、Made in USAのペンスキー製フルアジャスタブルリアサスペンションが奢られています。いずれも近頃の本場のフレーマー、この競技のためのレーシングマシンの標準的な仕様です。

"アメリカから来たホンモン" らしい選択ですが、これを我が国で再現するか否かはマシン製作の費用に大きく関係してきます。率直に言えば我々が日本で使うショートトラックのフィールドにおいては、ややオーバースペック。より安価で入手も楽な、国産モデル用からのパーツ流用がコストとパフォーマンスの両面で、より標準的なアイテムとなるでしょう。

1970年代に登場した初期のハーレーダビッドソンXR750が、35mmのフロントサスペンションでマイルレースまで戦っていたことに思いを馳せれば、現代の同径以上のフォークは充分すぎるほど機能するでしょう。アメリカには43mm以下の各メイカーのモデルラインナップが薄かったこと、ましてレーシングパーツなども作らなければ見当たらないこと・・・当地ではミニバイクもストリートタイプの250ccモデルも普及車種ではありません・・・を考えれば、この選択にも大いに合点がいきます。

本場で "ハイエンドブランド" と位置づけられるペンスキー製リアショックは、同社がペンシルバニア州所在の国内企業であることからの選択です。日本国内においてはオーバーホールできるショップも決して多くはなく、またアメリカ国外では入手の難しい現地規格の内部パーツが使われているなど、"ニッポンの普段使いフレーマー" で採用するには少々ハードルが高い "曲者" です。

そのため今回の計画では、近年品質を高めシェアを拡げつつあるアジア製サスペンションメイカーと恊働し、ほぼ同機能のショックを手頃な価格で誂えることができないか、現在検討を重ねています。

450ccや600ccの大排気量単気筒エンジンの強大なパワーを受け止めるフレームの素材は、アメリカのレースシーンではしなり特性に優れたクロームモリブデン鋼パイプと相場が決まっていますが、筆者自身の長年の経験からは、250cc程度の出力だと、しなりからの復元力を適切にターン立ち上がりのアクションに活用することが難しいように感じます。

公道仕様車としてはあまり一般的でない薄肉の単なるスチールパイプで構成され、極端に剛性を落とした設計のホンダFTR250・・・そのメインフレームは同時期のトライアルレーサーよりも軽量と言われます・・・が、デビューから30数年を経ても第一線で活躍できる理由はそのあたりでしょう。

というわけで今回我々の企画するレーシングフレームは、大排気量車向けのクロモリパイプ仕様と、250cc以下を想定したさらに低剛性で廉価なスチールパイプ仕様 (外見はほぼ同じですが) の2つのスペックを製作する予定。これはアメリカでもおそらく類を見ないアイディアです。すでにメインフレームからの採寸と治具は完成、これから実際の製作・・・それも少数ではなくある程度のボリュームで・・・それに向けた様々な詳細の検討に移っていく段階です。

小排気量車もモトクロッサー改も悪くないけれど。やはりこの訴求力。

個人的な活動の範囲でなら、アメリカのフレームビルダーから、あるいは中古レーサー売りたし買いたしのソーシャルサイトなどから、文字通り本場由来の逸品を手に入れることはもちろん可能です。

が、誰しもにそれが叶うわけでもありませんし、我が国でダートトラックレースを主催しこの文化を根付かせたいと考える筆者や関係者たちにとっては、人のココロを惹きつけてやまない "フレーマー" というマシンたちに、これまで以上にスポットを当て、しかも実際手に入れられるものとして一般化していきたいのです。

小排気量オフロードマシンでの軽量級のバトルも、市販モデルに各自が工夫を凝らして仕立て上げる中量級も、そしてモトクロス450ccマシンを定型的にモディファイするDTXスタイルも、もちろん "みんな違ってみんないい" わけですが・・・どれに乗っても難しいし楽しいんですけど、我々の作る新たなレーシングフレームに興味をお持ちの方、もしいらしたらぜひ続報にご期待くださいね。

ではまた金曜の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!