いやあ、読んでて実に勉強になるのがこの作品。三原和人先生の力作『はじめアルゴリズム』(モーニングKC)は、数学の天才少年ハジメくんが、老数学者の内田豊先生と出会うことで、その才能を開花させていくという物語です。

単に数学のお勉強だけ、というのではなくて、このハジメ少年、雲の流れやトンボの翅の形とか、いろいろなところに潜む不可思議な法則の存在を数学で解き明かしていこうとするので、我々もうっかり引き込まれていきます。と、同時に、なぜもっと昔に数学を真面目に勉強しなかったんだろう!と絶望しちゃったりするので、とっても困る作品なんです。

老数学者内田豊先生と天才ハジメ少年のタッグ

内田先生もまた、若かりし頃は天才ともてはやされた数学者でしたが、若い頭脳を酷使して世界中の天才が挑み続けてきた難題に跳ね返されたとき、彼は天才数学者としてテレビに文化人出演することで人気を得ます。それは彼にとっては数学からの逃走でした。

やがて数学への愛情を取り戻し、再び数学に没頭しようとしたときには既に遅く、自分にその力が失われていることを思い知らされて絶望する内田先生でした。
(実際、数学上のさまざまな発見をした天才の多くは二十代で偉業を達成しているそうで。数学とは知的体力を甚だしく消費する、若者の世界なんですな・・)

そんな内田先生がとある離れ小島で発見した天然の天才こそがハジメでした。正式な数学を習ったことがなく、独力で(オリジナルの計算式で)世界を”証明”しようとしていた、そしてそれを心から楽しんでいたハジメ少年をみつけた内田先生は、歓喜に包まれます。自分で数学の本当の深みを知り、その世界を明らかにすることはできなくとも、世界に続く道を照らす灯にはなれる。いや、なろう、と内田先生は決心するのです。

その後、ハジメより一つ年上の正統的な天才数学少年の登場(つまりライバルですな!)や、さまざまな事件を通じてハジメはより数学の世界にハマっていきます。ハジメのその姿を頼もしくも危なげにも思いつつ、内田先生はハジメをより広く深い数学の世界へと導こうと毎日奮闘するのです。

世界の理屈を一点一点理解していくために数学的なセンスが欲しくなる作品

100%ピュアな文系育ちのトーマスからすると、高等数学なんて、勉強したところで将来何の役にも立たねえじゃん的な存在で、まあ、ほんとやる気なかったとです。
でも、確かに、金融工学あたりを仕事にしないかぎり社会に出ると数学を使うシーンはあまりないものの、大人になってからよく考えると、数学って、数字を使って世界の理をシンプルかつ明快に示す作業なんだってことがわかってきます。

ゼロってなんだろう、ビッグバン以前の宇宙ってどんなんだったんだろう、人間死んだらどうなるの?とか、成人してからだいぶたってもわからないことばかり。そういう疑問一つ一つを数式で示し、証明していく。それってとっても楽しそう。でも、高校一年で数学に挫折したトーマスにはちんぷんかんぷん。いまから追いつこうと思ってもムリムリ・・・だからせめてハジメのあとを必死についていって、その喜びを少しでも理解したいなあ、なんて思うわけです。

(例えば、素数を見つけて喜ぶハジメら数学マニアたちの気分、なかなかわからないんですが、そのあたりからまずわかりたいです)

社会性というか、一般的な世間のルールの遵守にかけては、ちょっとズレている天才少年を、少しでもその才能を傷つけないように世間にアジャストするお手伝いくらいはできるかなと。ある意味、内田先生のヘルパー的な気分で、本作を読んでいる感じです。

アルゴリズムと聞いて、数学の話と聞いて尻込みする読者もいるかもしれませんが(ぼくもそうでした)、本作はそういう同志にこそ読んでいただきたい。

世界の天才がこぞって挑んでいまだに解けない難問がある以上、ハジメがその頂きに立てるかどうかは全くわかりませんが、行き着くところまでいくまで、ついていきたい。少しでも世界を理解するために。本作はその道案内なんです。ぜひ、ご一読を。