1年に100本以上の映画を鑑賞する筆者の映画評。今回はナチス・ドイツの侵攻が始まった1939年のポーランド・ワルシャワで動物園を営んでいた夫婦が、ユダヤ人300人の命を救う実話『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』。
必死の勇気と底なしの優しさでもって多くの人々を救った園長夫人アントニーナ役にはジェシカ・チャステイン。
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舞台はポーランド・ワルシャワ。ナチスの毒牙から多くのユダヤ人を救った勇気ある夫婦の物語

僕は以前、ナチス・ドイツの侵攻に揺れるチェコ・スロバキアから数百人の子供たちを救った実在の人物の偉業を描いた『ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち』を紹介した。
ナチス・ドイツの蛮行を題材にした映画は数多くあって、人間が持つ無慈悲な残酷さがあまりに際限がないことに憂鬱になるが、反面、世界中のさまざまな場所で迫害される人々を自らの命を賭して救おうとした人々がいたことに安堵を覚える。シンドラーや杉浦千畝だけがユダヤ人たちを救おうとしたわけではなく、チェコではニコラス・ウィンストンが、ポーランドではヤンとアントニーナがいたのである。

本作は、ワルシャワでヨーロッパでも最大級の動物園を営んでいたヤンとアントニーナの夫婦が、ナチス・ドイツによってゲットーに押し込められ大殺戮の危機に瀕していたユダヤ人たちを命がけで救い出し、動物園に匿った実話を元に作られている。ゲットーに潜入してはユダヤ人たちを救出するヤンと、救い出されたユダヤ人たちを勇気づけ、ドイツ軍から匿い続けるアントニーナ。見つかったら幼い息子や娘ともども殺されるであろうリスクを承知しながら、ユダヤ人であるということだけで迫害される多くの罪なき人々を見て見ぬ振りができなかったのだ。

最初は直接親交があったユダヤ人たちの救出だけのつもりだった、しかし、彼らは結果として300人ものユダヤ人を匿い、命を救う。そこにあるのは、正義感とかナチスへの怒りといった直接的な動機というよりも、まさしく”見て見ぬ振りができない”という非常に単純な感情だった。そこに僕は、人間というものが持つ、天使にも悪魔にもなれる二面性を強く感じざるを得ないのである。

ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命(プレビュー)

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アントニーナ役には名女優ジェシカ・チャステイン

ヒロインのアントニーナを演じるのは、「ゼロ・ダーク・サーティ」や「女神の見えざる手」などで知られるジェシカ・チャステイン。

いつもながら芯が通った気丈な女性を闊達に演じているが、今回のアントニーナはナチスの手に落ち、自分だけでなく家族や匿っている多くの人々の命を預かることに重大さと重圧に必死に耐える健気な女性が見せる、強さと弱さを見事に表現している。