年間100本以上の映画を鑑賞する筆者が独自視点で今からでも・今だからこそ見るべき映画を紹介。
今回は、テニスの世界女王ビリー・ジーン・キングと、かつて全米・全英大会優勝を果たした往年の名選手ボビー・リッグスの間で行われた世紀の一戦、“The Battle Of The Sexes”(男性と女性の戦い)を描いた『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』。
ヒロインのビリー・ジーン・キングをエマ・ストーン、ボビー・リッグスをスティーヴ・カレル が演じている。

実際に行われた男女のテニス対決を映画化

1973年9月20日に実現し、世界中のテニスファンを熱狂させた一戦、「バトル・オブ・ザ・セクシーズ(男性と女性の戦い)」。女子テニス世界チャンピオンのビリー・ジーン・キング(試合当時29歳)と、元男子チャンピオンのボビー・リッグス(同じく、55歳)が対決し、ビリー・ジーン・キングが5セットマッチの3セット連取でリッグスを圧倒した。

本作はこの世紀の一戦とその時代背景を映画化したものであるが、予告やプロモーションにおいてはシンプルに男性優位を叫ぶ権力者たちの代弁者としてのボビー・リッグスと、女性の地位向上を訴えるビリー・ジーン・キングの激突であるように説明されていたが、実際の作品ではその背景はより複雑だった。
1968年にテニスの四大大会はオープン化されたが、全米オープンにおける男女の賞金格差は実に8倍。ビリー・ジーン・キングはこの賞金格差の是正を目指す運動の旗手として、女子テニス協会(Women's Tennis Association=WTA)を設立していた。(実際、当時はテニスに限らず、社会的に男女不平等を是正しようとする、”ウーマンリブ”運動が盛んになっていた)
ここに目をつけたのがボビー・リッグスで、当時ギャンブル中毒だった彼は家庭崩壊の危機に直面していたが、敢えて「男性至上主義のため」と称して女性プレイヤーとのエキシビジョンマッチを組むことで賞金稼ぎを目論んだのだった。つまり彼自身は特に男性至上主義というわけでもなく、単にビリー・ジーン・キングらの女性の地位向上を目指す気分を、利己的な目的のために利用しようとしたと言える。

また、ビリー・ジーン・キング自身も女性の地位向上の代弁者ということだけでなく、男性との結婚状態(キングはその男性の姓である)にあったものの、のちにレズビアンであることをカミングアウトするように、LGBTQの社会的立場の代弁者でもあった。

本作では、恐らくはゲイであろうファッションコーディネーターの男性が、ビリー・ジーン・キングに向けて「いつかはどんな相手をも愛する自由をもてる時代が来る」と語りかける。その意味で、本作は実際にあったテニスの大イベントの名を映画タイトルにしてはいるが、実際には男性、女性、そしてその二分に規定されないさまざまな”性”の戦いに挑むビリー・ジーンの姿を表していると言えるのである。

実はシリアスなテーマを扱った作品

テニス経験がなかったというエマ・ストーンだが、本作中のプレイはなかなかに様になっている。それに比べるとスティーヴ・カレルのプレイはやや手打ちに過ぎて、もう少し練習して欲しいと思わざるを得ないが、それでも実在のボビー・リッグスと瓜二つの容姿を作り上げていて感嘆する。

ボビー・リッグスは男女格差の是正を目論む女性たちの運動と、それを冷笑しつつ紳士的な態度を装いつつ押さえ込もうとする男たちの間で、狂言回しのように振る舞う。そのコミカルな様子をスティーヴ・カレルは楽しげに演じている。

エマ・ストーンは女性の立場を代表するというプレッシャーに慄き、さらに人に言えぬ自身の新しい性の芽生えに かの時代ならではの良心の呵責に悩むビリー・ジーン・キングの姿をリアルに表現している。

本作にはコメディ要素がなくはないが、実際にはかなりシリアスで重いテーマを扱った作品であり、深みを持った人間ドラマだ。

『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』11.2先行デジタル配信/12.5ブルーレイ&DVDリリース

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