今回はアイゼンハワー、JFK、ジョンソン、ニクソン政権と続いたホワイトハウスの欺瞞と隠蔽を暴いた米国の新聞記者たちの魂魄を描いた『ペンタゴン・ペーパーズ』。
実際の政権vs報道の戦いを題材にした硬派なドラマ
1955年11月から1975年4月まで続いたベトナム戦争。世界最強の軍事力を持つ米国が勝てなかった戦争でもある。米国は延べにして250万人以上の兵士を動員し、30万人以上の死傷者(戦死者は6万人近い)を出した。
ホワイトハウスでは、早い段階から戦況の悪化と、改善の兆しがないことを知っていたが、その事実を隠して軍事介入を続けてきた。その事実を掴んだニューヨーク・タイムズは1971年、泥沼化する戦況を調査し、客観的に分析しつづけた機密文書の存在を暴露し、一部内容をスクープ。
慌てたホワイトハウスは、強権発動によってニューヨーク・タイムズを牽制し、続報の公表を差し止めようとするが、ニューヨーク・タイムズのライバル紙であるワシントン・ポストが残りの文書を入手し、隠蔽の事実をすべて明るみにしようと動く。
当然ワシントン・ポストにも政治的圧力の矛先が向いてくることは間違いない・・・。果たしてホワイトハウス対新聞社(あるいはマスメディア)の戦いの行方はどうなるのか?
政治に対する報道の自由を貫こうとするワシントン・ポストの編集主幹ベン・ブラッドリーをトム・ハンクスが、全米の主要新聞社の初の女性発行人として会社の存亡を賭ける決断を迫られるキャサリン・グラハム社主をメリル・ストリープが演じる。
メディアへの信頼が揺れる現代だからこそ観るべき映画
4代にわたって行われた米国政権による隠蔽。それはベトナム戦争への軍事介入を続けるための都合のいい口実作りのためであり、その結果多くの米国の若者がアジアのジャングルに派遣され、命を落とすことになった。
その戦争や行為が米国の安全保障上必要なものだったとしても、真実を隠蔽しつづけた欺瞞であったことは事実であり、それは許されることではない。そしてその事実を公表することこそがメディアの使命である。
そう考えたのがニューヨーク・タイムズでありワシントン・ポストのジャーナリストたちだった。特にワシントン・ポストは(ベトナム戦争の戦況をレポートした)機密文書を暴露しただけでなく、追い詰められた当時のニクソン政権の違法行為を暴いたウォーターゲート事件報道など、政治的圧力に決して屈しない報道の自由と意地を見せ続けた。
2018年も終わろうとしているが、いまや米国はニクソン政権当時よりも高圧的で横暴なトランプ政権によって分断され、フェイクニュースによってメディアの信頼性も揺らぐ状態だ。いわば当時以上にメディアのあり方が問われているといえる。
1970年代に気を吐いたニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストはともに紙からインターネットへとプラットフォームを移し、デジタルパブリッシャーへと進化しつつある。(ニューヨーク・タイムズはネットでのサブスクリプション加入者世界一となり、ワシントン・ポストもオーナーをグラハム一族からアマゾン・コムの創業者兼CEOのジェフ・ベゾスへと変えて新しい姿に脱皮し始めている)
大きく変化する今だからこそ、本作を観る意味がある。いや、観なければならない。