伊藤嘉啓氏
バラードスポーツCR-Xとホンダをこよなく愛するカメラマン。ホンダだけではなく旧車にも滅法詳しい。そのため、ホンダ社内からも一目置かれる存在である。当然、写真も腕も一流だ。
そんな彼の愛車CR-Xのオドメーターはなんと68万5000kmを越え。これまで一体どこへ向かったのか、なぜそこまでCR-Xを愛するのか、そして今後の走行距離は何万kmに到達するのか…この連載【地球まで、もう少し。】を通してCR-Xの魅力とともに徐々に紐解いていく。
前回の連載【地球に帰るまで、もう少し。】記事はこちらから!
愛車CR-Xに事件発生!
生産から10年以上も経ち、ボチボチいろいろな消耗部品の交換時期に差し掛かってきた1996年の末、車検ついでにブレーキ一式をオーバーホールして、さらにレリーズベアリングから音が出始めたから、クラッチはベアリング、ディスク、カバーの3点セットで交換した。
またドライブシャフトのジョイントを交換したり、他の不具合箇所も治してトータル30万円余りもの支払いを済ませたのである。振り返ると今よりも圧倒的にフトコロに余裕があったんだな、この頃は。
この時点での走行距離は15万キロ程。このときは、こんな距離まで乗るつもりなんて微塵も思ってなかったんだけどなぁ。
そんなCR-Xに最大の危機が訪れる。それは車検整備が終わって一週間も経たない頃だっただろうか。年の瀬も押し迫ったある夜の出来事だ。
その日ボクは、某編集部の忘年会に誘われ、撮影の帰りに新宿での宴に参加したのだ。CR-Xは、近くの駐車場に停め、もちろんアルコールは一滴も飲まず、ソフトドリンクで楽しいひとときを過ごした。もともとアルコールを受け付けない身体なんだよね。
そして一次会が終了し他の人は二次会へ。そのタイミングでボクは帰ることにした。年末の深夜チョイ前の時間帯は、昼間の混雑がウソのように都心へ向かう某幹線道路は空いていた。
車検整備後でCR-Xもすこぶる快調。昼間は混んでてストレスの溜まるその道路に、他のクルマはほとんど走っていなかったので、気分も良くなり、快適に走行していた。
その幹線道路は地形の関係で、大きなT字路を右折するようになっている。昼間だと、まず間違いなくその手前で信号に引っ掛かかるんだけど、その日はタイミングよく信号は青。
チョイとブレーキを踏んでハンドルを右に切り緩い下りの左コーナーに入って行くとその先にある信号も青だったから、下り坂ということもあり速度が増していく。普段はキツいと思わないその左コーナー……ま、マズい! その速度では曲がれるハズがなかった。
そしてよぎった最悪の展開が…
慌ててアクセルペダルを戻したもんだから、当時のFF車では当たり前のタックインというヤツでスピンモードに入ってしまった。とくにホイールベースの短いCR-Xはこの傾向が強く、その特性を活かしてジムカーナでは滅法速かったんだけど、こんな状況ではそれが仇となるパターンだ。
アッという間に、今度は目の前に路肩のガードレールが迫ってくる。ハンドルを右に切って、何とか正面からの衝突は避けたもののCR-Xは、左前部をガードレールに激しくヒット。その反動で左後輪も縁石に直撃する……。幸か不幸か、運転していたボクは何のダメージもないけど、バックミラー越しにパーツが散らばって行くのが見えたのだった。
CR-Xの姿は一体どうなってしまったのか…。後編に続く!