年間100本以上の映画を鑑賞する筆者が独自視点で今からでも・今だからこそ観るべき映画を紹介。今回の100分の1の映画は、どん底生活をしていた青年が1匹の猫を拾ったことから人生を好転させた、実話ベースの『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』。

部屋に紛れ込んできた茶トラの猫ボブが運んできた幸せ

主人公のジェームズは、路上でギターの弾き語りをして生活をしているが、重度のヘロイン中毒から抜けられず、金もない路上生活を余儀なくされていた。

そんな苦しい環境にいたジェームズだったが、運良く薬物依存者に手を差し伸べるボランティアによって救われ、住む家を与えられることになる。絶望の中でようやく受けた他人の厚意に感謝する彼だったが、ある時 部屋に紛れ込んできた1匹の野良猫にボブと名づけ、部屋で飼うことになる。
自分が人から受けた温情を、自分もまた与える対象を得たことで、ジェームズの心の中に一種の責任感が生まれたのだ。

やがて彼はボブを連れて再び路上での演奏に赴くが、猫を連れたミュージシャンの姿が、図らずも多くの人々の関心を呼び、これまでにない注目を浴び始める。
それにつれ、ジェームズはボブに対して自分のかけがえのない親友として強い感情を抱き始める。

どん底の暮らしをしていた若者が、偶然出会った1匹の猫と友情を育むことで、生活を一変させたという実話を忠実に描いた、ハートフルな作品。

悲惨な環境から脱せたのは幸運だったが、その幸運を過度に恃まず、頑張ったのは主人公自身だった

本作の主人公ジェームズは、たしかにろくでもない生活を送っていたが、性根はクズではなかった。
人に感謝し、自分自身なんとかどうしようもない現実を変えたいと努力はしていた。そして、ボブと出会うことで運気が上がってきたときも、それを強く当てにしたり図に乗ったりすることはなく、打算的になることもなかった。

ジェームズの中に、ボブや周りの人に感謝する気持ちがあったからこそ、彼は立ち直れた。キッカケを与えられるという幸運があったにせよ、その幸運に依存するのではなく、自分で立ち上がる決意をしたからこそ、ジェームズは幸せを手に入れた。

その意味でボブは長靴を履いた猫ではない。何かに依存することでしか生きてこなかった男にとって、生まれて初めて全力で守りたい、守らなければと思える存在であっただけである。