気軽に乗れるトレールバイクと言えば空冷2ストロークが主流だった1970年代は、ダートトラックカテゴリー、特に短距離 = ショートトラック種目において、その競技特性に合致したチューニングを施された各メイカーの2ストロークマシンが大活躍する時代でもありました。本日は、そんな軽量・低重心でスリムな2ストロークショートトラッカーならではの、オールドスクールなライディングテクニックをご紹介しましょう。

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。今のご時世で、新たにダートトラックライディングに取り組もうと考える方に、我々がお勧めする車両というと、現行ラインナップかそれに近い、100~250ccの4ストローク単気筒マシンが中心となりますが、今日ご紹介するのはそれらの登場するはるか以前、40年くらい前の1970年代のお話です。

2ストローク250/360ccのパッケージレーサー = ブルタコ・アストロの登場。

スペインのモーターサイクルメイカー・ブルタコが、アメリカへのブランド進出を検討するうえで、何としても手がけねばならない重要な取り組みだと考え、1971年に発表したダートトラックコンペティション専用車 "アストロ" こそ、他メイカーやビルダーに大きな影響を与え、2ストロークマシンによるダートトラックレーシング、特に中・短距離トラックでの参加型スポーツとしての発展に、大きく貢献したモデルだと言われています。

当時ショートトラックやTTレースがしばしば行われていたヒューストン・アストロドームから命名された、このシンプルで華奢な生粋のレーシングマシンは、時を置かずして全米各地のレーストラックで活き活きと躍動を始め、OSSA・ヤマハ・Can-Amなど様々な2ストロークエンジンを、軽量なレース用フレームに搭載したマシンを駆るライダーたちが慌ててその後を追うことになります。

時代を超えて愛される、2ストロークならではのシンプルなメカニズム。

2ストロークエンジンのシンプルな構成が幸いし、本場アメリカのローカルトラックでは今日でも、良好なコンディションを保って走り続けるレーシングマシンをそこここで目にすることができます。こちらはエンジン上部をダストカバーで覆っていますが、1978年か1979年ごろのホンダCR250エンジン(右チェーン・通称レッドロケット) をナイト製スーパーライトフレームに搭載したマシン。ライダーは往年のGPライダー、ジョン・コシンスキーです。

4ストロークと比較してパワーバンドが狭く、馬力は有ってもトルク感の少ない2ストロークエンジンは、エンジンブレーキの効きも弱くダートトラック向きではないと言う意見もありますが、実際の使われ方はどうなのでしょうか?ノリと勢い任せ?なにかこの種目ならではの特別な仕掛けがあったりして?

エンジンを "止めて走らせる" 必須オプションアイテム???

こちらの写真はたまたま筆者ハヤシの手元にあるハーレーダビッドソンSX250 (イタリア・アエルマッキ製)のエンジン・シリンダーヘッド部分。実は1970年代の2ストローク単気筒エンジンは、各メイカー、どういうわけかプラグホールが2つ設けられているモデルがとても多いのです。

■レースで使う場合の暖気用に熱値の異なるプラグを取り付ける
■カブった時のための予備プラグはコチラ
■配線や点火系を改造してプラグ2本から火花を飛ばしツインスパーク仕様に

様々な理由、というか説?使い方?があるようですが、一般的な正解はどちらなのでしょうか。当方ダートトラック以外は当時のマシンについて疎いので詳しい解説は専門の方に委ねますが・・・?

70年代の2ストロークダートトラックマシン、特にショートトラックで戦う車両には、2つ目のプラグホールを利用して、この写真のような "コンプレッションリリース = ヘッドデコンプ機構" を組み込みことが一般的でした。手元のレバーを引くとワイヤーを介してワンウェイバルブが作動します。

見分けにはハンドルバー左手側に、クラッチとデコンプの2本のレバーとワイヤーが配置されているかどうかが目印です。エンジン燃焼室内の圧を抜くための仕組みですが、これはキックスタート時や、走り終わってエンジン停止のために設けられるわけではありません。走りながら、使います。

実際のレース中の"コンプレッションリリース"作動の様子はこちらから!

Springfield Bultaco Astro Cup Main

youtu.be

このオンボード映像は、1970~1980年代にデビューした往年のプロライダーたちや、ヴィンテージカテゴリー愛好のアマチュアレーサーが一同に介し、エキシビジョンとしてしばしば行われ、大変評価の高い、ブルタコ・アストロによるワンメイクレースの模様です。

ライダーは2000年のGNC王者ジョー・コップ。彼がストレートからターン進入にかけて、左手人差し指でレバーを操作し、コンプレッションリリース機構を作動、エンジンを強制的に失火させ、2ストロークの弱点でもあるバックトルクの不足を補い、4ストローク車のエンジンブレーキのように使ってマシンをコントロールする様子がご確認いただけるかと思います。

現代の2ストローク65ccや85ccの水冷モトクロスレーサーも、まだ小柄な若いライダーを中心にダートトラックレースのためのベース車両として使われることはありますが、最近はエンジン内部のクランクシャフトなどを重量化し、ランニングマスを増大させて安定感を補う手法が一般的なようです。そのお話は、また今度。

以上、本日は往年のダートトラックならではのひと味違ったチューニングをご紹介しました。餅は餅屋、的な?工夫を凝らして特徴に合致したパフォーマンスを訴求してこそ、より安全に高度なライディングを楽しめるはずです!ではまた金曜の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!