年間100本以上の映画を鑑賞する筆者が独自視点で今からでも・今だからこそ観るべき映画を紹介。今回の100分の1の映画は、クリント・イーストウッド監督による市井の青年たちの英雄的行動を描いた『15時17分、パリ行き』。

実際に起きたテロ事件に立ち向かった3人の米国人青年たちを描いた話題作

幼馴染の3人の米国人青年たち(スペンサー・ストーン、アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス)は、それぞれ別の道を歩んでいたが、成人を迎えてもその友情は変わらず、常に連絡を取り合っていた。
スペンサーは米国空軍の軍人となり、アンソニーは大学に進学。アレクは生まれ故郷のオレゴン州の州兵となっていた。3人は、アレクがアフガニスタン駐留から帰国したお祝いにと、気ままなヨーロッパ旅行に向かう。
長年の友情を確かめながら若者らしく道中を楽しむ3人だったが、アムステルダムからパリへと向かう列車の中で思いもかけない事件へと巻き込まれる。武装したイスラム過激派の青年が無差別テロを行おうとして、てむかった乗客に発砲したのだ。

愉快な旅行が一転して決死の事態になったそのとき、3人の青年たちがとった行為とは??
実際に起きた列車内での銃撃事件をモチーフに普通の青年たちの英雄的行為をノンフィクション風に描いたクリント・イーストウッド監督の話題作。

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2015年8月21日に起きた、乗客554名を乗せたアムステルダム発パリ行きの高速鉄道タリス車内で発生した無差別テロ襲撃事件「タリス銃乱射事件」。
イスラム過激派の男がAK-47(1949年にソビエト連邦軍が制式採用した自動小銃)や拳銃を乱射し、乗客を殺害しようとしたが、3人のアメリカ人乗客と1人の英国人乗客によって取り押さえられた。

4人はフランスの最高勲章であるレジオン・ドヌール勲章を授与され、米国人乗客3名(米国空軍所属のスペンサー・ストーン、大学生のアンソニー・サドラー、オレゴン州兵のアレク・スカラトス)は帰国後ホワイトハウスに招待され、バラク・オバマ大統領と面談した。

本作は、このタリス銃乱射事件をノン・フィクション的に表現した映画であり、さらに上記の3人の米国人乗客を、それぞれ実際に犯人制圧を行なった本人たちが演じたことで話題になった。

右から、スペンサー・ストーン、アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス。
実際の事件に遭遇した本人たちが演じている。

実際の乗客たちに本人役を巧みに演じさせたクリント・イーストウッド監督の妙手

本作では、3人の米国人青年が知り合うところから長じて事件に巻き込まれるまでを丹念に描いているが、犯人に銃撃された乗客とその妻、そしてスペンサーらとともに犯人制圧に加担したイギリス人乗客のクリス・ノーマンも実際に事件に遭遇した”本人”が本人役として登場している。

スペンサー(白人)、アンソニー(黒人)、アレフ(白人)の3人は、人種の違いや性格の違いを超えて深く強い友情を育んできた。彼らがテロ事件に遭遇してとっさにとった行動は確かにヒロイックなものだったが、彼らはあくまで普通の青年として、普通の生活を送ってきた。子供の頃などはむしろ劣等生、問題児として扱われていたのだ。

そんな市井の青年である彼らが突然降りかかったトラブルに対して冷静に行動し、最悪の惨劇を未然に防いだからこそ、彼らの行動や勇気は尊く感じられるのである。

クリント・イーストウッド監督は『ハドソン川の奇跡』や『アメリカン・スナイパー』など実話ベースの映画化を好んで扱っているが、本作は本人たちを俳優として起用したことでさらに話題になった。
しかし、同時に、スペンサーらの子供時代には確かに長じたら彼らのようになるだろうと思わせる、よく似た子役に配したり、本人役を本人が演じるというアイデアをアイデア倒れにならないように巧みな演出を行なっている。実際のテロ事件に至るまでかなり長いプロローグがあるのだが、それを飽きさせずに観続けさせることができるのも、監督のそうした演出の冴えあってのものだと思う。