ダートトラックライディングの仕組みを物理現象として理解し、基本的なマシンのセットアップを知って、練習にも足しげく通うことで、あなたは好条件の単独走行でならひとまずマシンを振り回せるようになった・・・さてその次は?走者同士が接触寸前の距離感で丁々発止の攻防を繰り広げるこのカテゴリーで、安全に上達し、しかも勝てる・強いライダーへと成長するためには、いったいなにが必要なのでしょうか?答えはひとつ。それは、手の内をほとんどすべてさらけ出し、お互いがしのぎを削る、信頼のおける練習相手、いわば "スパーリングパートナー" をみつけることです。

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。毎週金曜の当コラムを熟読いただいている親愛なる読者の皆さんには、横向きにマシンを走らせ、減速・方向転換から再加速の準備までをシームレスに一気に行う、ダートトラックのキモ・ "スライディングブレーキ走法" の基本概念について、すでに一定のご理解をいただいていることと思います。

実際のレーストラックに足を運び、まして自ら走り出してみればきっとすぐに気づいていただけますが、ダートトラックはそもそもが "スプリントレース = 短距離走" 。今すぐには無理でもいつの日か、ヒリヒリするような抜きつ抜かれつのオーバーテイク合戦のまっただ中に我が身を投じてこそ、このスポーツの真骨頂、奥深い魅力を全身で味わえるというものです。

"基本的な抜かれ方" の分析なくしてスマートに刺し・抜くことは不可能。

慣れない鉄スリッパを身につけ、おっかなびっくりコースを走り出した、まだ経験の浅いライダーに、筆者をはじめ経験者がまずお伝えするであろう注意点は、およそ以下のようなもののはずです。

「後続者に追いつかれ・煽られている気がしても、無理に減速したり道を譲る必要はない」
「KEEP GOIN' = そのまま淡々と走ればよい」

手練の上級者はあなたがなにもしなくても、あるいはできなくても、十分なマージンを取って勝手に抜いてくれます。背後からヒタヒタと迫るプレッシャーに負けてマシンの制御ができなくなり、転倒しそうな気配を感じたら、ササっと避けて、しかも後続に注意を促すくらいの余裕があるはずです。

FEVHOTS Open Practice on every Tuesday. 於 オフロードヴィレッジ(埼玉県川越市)
撮影: GARAGE SUGAWARA

未だマシンがフルバンクせずとも、真横を向けて走らせることはできなくても、転ばず走れるくらいの基本スキルが身に付いている方、身の丈以上の無理をする必要は全くありません。どうやって上級者がご自身をあっさりとブチ抜いていくのかを、冷静にしっかりと観察してください。正しい道を走り続けていれば、さして遠くないいつの日か、あなたが抜く側に立つ場面が必ず来るからです。

「その上級ライダーに、どの区間で抜き去られると比較的恐ろしくないか」
「自分と上級ライダーとは進入〜立ち上がりの組み立て方がどのように違うのか」
「それぞれの地点ごとのスロットルの開度は?開け始めのタイミングは?」

自分以外のライダーの一挙手一投足を全身で感じ・理解すること、スムーズでリスクの少ないオーバーテイクの方法を同じレーストラック内で、誰よりも間近で観察して学ぶことこそ、やがて自身が前走者を刺して抜くための "技術" を磨く準備の段階で、まずは大変重要な過程だと言えるでしょう。

"LAST MAN STANDING SHOW" にまずは "パック" で生き残るために!

ゴルフやテニス、あるいはダーツなど、オトナがたしなむアクティビティの多くでは、"上達への近道として、自分より少し巧い人を仮想ライバルとして設定するとよい" と言われることが多いようです。ことダートトラックに関しても、目標とする相手を定める、という意味ではよいことですが、追いつくことと抜き去ることだけに固執し、自分より速い相手にがむしゃらに挑んでも、スポ根的カタルシス、あるいは負けて当然の言い訳にはなりえても、走りの精度は大して上がらないでしょう。

ここからは重要な部分です。
数あるモーターサイクルスポーツの中のダートトラックは、他カテゴリーと同様、個人スポーツと思われるかもしれませんが、実は、なんと、違います。本場アメリカでこのスポーツは "CLASS ACT" と評されることも多く、いわば "団体での演舞" といえば良いのでしょう、集団 = パックの中でのポジションの取り合いを、ルールとギリギリの紳士的ふるまいとともに争う・・・そして結果として最後に一番前を走ったものが勝つ、というイメージでしょうか。

Nicky Hayden briefly leads Springfield Mile, finishes 4th

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映像は1,600m x 25周の全米選手権・伝統のスプリングフィールドマイルレースですが、ライダーたちは必ずしも全周回、全力を尽くして走っているわけではありません。この映像では6~7台がトップ集団を形成し、小手調べ的に順位を入れ替えながら、ラスト数周のスパートに最も有利なポジション取りの思惑を働かせています。若く勢いのある69番のニッキー・ヘイデンも一時は先頭を快走しますが、ラストラップではベテラン勢のテクニックと戦略の前に、4位に甘んじることとなりました。

ちなみに "CLASS ACT" には "集団でのアクション" という意味の他に、なんと、"一流で最高にクール" という意味もあります。日本ではあまり一般的な言い回しではありませんが、今日のコラムの内容と合わせて心に留め置いていただければ嬉しい限りです。

抜いて・抜かれて・また抜いて!一連のアクションとして精度を上げよう。

さて、筆者はこの前の日曜日、当コラムで以前ご紹介した、日本ダートトラック界が誇るワールドクラスライダー・大森雅俊選手からの直接指名で、彼の出身地である茨城県は城里町の夏祭りでのアスファルト・デモンストレーションに出演しました。

アスファルトスライドショー ホロルの湯 大森雅俊 + ハヤシナオミ 2018.8.26

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世界を股にかけ今も第一線を走り続ける大森選手と、新たな国内ダートトラックシーン創出のため2011シーズンを最後に現役レーサーを退いたかたちでレース・イベントを主催する筆者とは、もはや走りの格が違ってお恥ずかしい限りですが。今回我々二人は、2015年の浅間ヒルクライム・標高2,000mでのオーバルデモンストレーション以来久々の競演でした。

地元出身の若きヒーローの活躍を一目見ようと、ギリギリの距離で周囲を取り囲む観衆の安全マージンを確保しながら、ダートトラック "レース" の魅力をアピールする、というテーマでのデモンストレーションでしたが、現場の皆さんには多いに盛り上がっていただけたようでした。本日は映像から、走りの内容や結果ではなく、それぞれのポジション取りと順位の入れ替わりにご注目ください。

"ほぼフルコンタクトスポーツ" だからこそ繰り返しの寸止め練習が必須!

単独でのダートトラックライディングが転倒なく可能になったライダーの、次なるレベルの課題としては、同じようなパワーと大きさのマシンに乗った、同等のスキルレベルの相手を捕まえて・・・もともとの友人知人でも現場で行き会った方との邂逅でも構いません、上の大森 + ハヤシ組の映像のような"抜きつ抜かれつ" の演舞をイメージし、意思疎通を取りながらアレコレ試して走る練習が、"絶対に必要" です。練習していないことは本番では決して成功しません。

Tunica 2003 Heat 1 Mike Hacker and Aaron Creamer

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こちらは15年前の本場アメリカ・200m弱のインドアショートトラックの映像です。450ccモトクロッサー・ベースのダートトラッカー = DTXと、500ccオーバーのROTAXフレーマーなど空冷ビッグシングルが混在するプロクラスの模様ですが、ライダー同士の距離感はもちろん、オーバーテイクに虎視眈々と備えるそれぞれの "ポジション取り" に注目していただきたいと思います。

マイルレースでのドラフティング = スリップストリームを使わなければならない場面を除けば、ダートトラックレースで前走者の真後ろを走るのは、非常に消極的かつ危険なライディングです。抜き去る前に、前走者に対して "車線変更" をしなければ横に並ぶことすらできませんし、映像のごとく転倒に巻き込まれるリスクも高まります。このスピードでも当たると結構痛いと思いますよ。

FEVHOTS Open Practice on every Tuesday. 於 オフロードヴィレッジ(埼玉県川越市)
撮影: FEVHOTS

筆者の主宰するダートトラックレース団体・FEVHOTSでは、毎週火曜日を "オープンプラクティス" と称し、埼玉県川越市のウェストポイント・オフロードヴィレッジ常設オーバルで定例の練習走行会を設けています。残暑厳しい9月末までは基本的に15時〜20時の開催 (状況により夜間照明あり・雨天中止) 。基本的な走行ルールを守っていただける方であれば、広くどなたでも参加可能です。

平日開催で一般のライダーが少ないため、のびのびと安心して走っていただけます。ご希望があれば、簡単なワンポイントアドバイス (無償) ・完全なプライベートレッスン (有償?) いずれも承りますのでお気軽にご相談ください。ではまた金曜の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!