スロットル全開で、高いエンジン回転数を維持したままターンに飛び込み、一気にフルバンク・前後輪横滑り状態でのブレーキング = コーナリングを指向するダートトラック。レーシングマシンをより扱いやすく、高いパフォーマンスを発揮するべく選ばれるマフラー = 排気装置は、他のスピード系モーターサイクルスポーツとは全く異なるアプローチで、そのピーク性能に到達するようデザインされています。本日はそんな、一風変わったダートトラックマフラーの歴史と秘密に迫ります!

そもそもは単なるパイプ=ほぼ直管が一般的でした。

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。ダートトラックで必要とされるエンジン・マフラー性能は、あえて鋭さを失わせた回転上昇特性と分厚くフラットなトルク感、滑りやすい路面を確実に捉える "開け始めのルーズさ" など、一般的なストリート・マフラーやオンロード / オフロードでの要求とは大きく異なります。この感覚は、フラットダートでのスポーツ走行を体験したり、ある程度は競技に親しんだ方でないと、もしかすると実感しづらいものかもしれません。

ストリート・カスタムの世界でいわゆる "トラッカースタイル" と呼ばれるマフラーの源流にも、当然ながらダートトラックレーサーのイメージがありますが、本場アメリカの競技指向のマシンは全開時の扱いやすさとパワーアップをまずは重視するため、消音にはほとんど気を使っていないものが多いことを知っていただけたらと思います。ダートトラックはその走法の特徴とも相まって、"静かに走ることが難しい" スポーツだとも言えるのですが。

1969年サンタフェTTのジャンプを飛ぶハーレーダビッドソンKR750。名機XR750のデビューは翌年1970年。

www.cyclenews.com

モーターサイクル誕生とほぼ同時に始まったであろうダートトラックの歴史の中で、エンジンパワーを出し切ってのハイスピード走行がその大半の時間を占める以上、喧しい音量のことはさておき、当初の排気方法はそのまま直管で特に性能面での問題もなかったようです。現代の我が国オートレース用マシンも、基本的には同様の考え方です。

パーツや作りかけではなく、トライアンフ並列二気筒エンジン用"TTパイプ"の完成品。TTレースでは左右どちらも車両をバンクさせるため、対称形のパイプ構成となっている。

ディスクシステムは排気管長を調整し状況に合わせたセットアップを狙うため。

90年代〜2000年代の初頭くらいまで、我が国ストリート・カスタムシーンでまさに一世を風靡した "スーパートラップシステム" も、ダートトラックイメージの強いマフラーです。マフラー後端部のディスク枚数を増減させることで、"音量と迷惑具合" を変えられる、という印象は一般の方もお持ちかもしれません。

撮影: 中尾省吾

本場アメリカのダートトラックレーシングの世界では、側方から排気の漏れない組み合わせ方にしたディスクを0枚〜多くて40枚、10枚ずつほどで付け外すことにより、トラックコンディションとレース運びに合わせた排気管長とエンジン全開領域での特性変化を狙って、まだまだ現役で重用されているシステムです。

ビル・ワーナー + スーパートラップフルエキゾースト C&J / J&MホンダCRF450R ('07以前用) 定価 $1,079.00!!
撮影: 斎藤淳一

かつて我が国のストリートに溢れたディスク式マフラーの多くは、スーパートラップ社製の汎用サイレンサーに国内で独自に製作されたエキゾーストパイプを組み合わせた、比較的安価なものでした。本家スーパートラップ社では現在も、ダートトラックレース専用のレーシングマフラーを、有名チューナーであるビル・ワーナーとの恊働で各車種用として販売しています。

"BOOM BOX" はカリフォルニア地区限定の消音仕様・苦肉の策が始まり!

ハーレーダビッドソン・XR750などの二本出しマフラーを、ホームベース型の巨大なアルミカバーで覆い、出口を一本にまとめたものを、"BOOM BOX = ブーンボックス" と呼びます。

www.influx.co.uk

二本の独立したストレート排気を出口でぶつけ合うことで消音効果を狙うこの仕組みは、西海岸、特にカリフォルニア州の騒音条例に対応して80年代に考え出された苦肉のアイディアで、重量もさることながら、あまり美しくないと考えるアメリカ人が多いようです。しかし最近でも数は少ないですが、AFT: アメリカンフラットトラックシリーズの一部の二気筒マシンなどで採用されています。

WOOD HONDA CRF1000L
撮影: 中尾省吾

現代の単気筒車の流行は "アイドリング時105dB以下(!?)" の低重心マフラー。

VANCE & HINES製 ホンダCRF450R(2017~)用 ダートトラックレーシングマフラー

D&D Performance Exhaust製 ホンダCRF450R(2014~2016)用 ショートタイプレーシングマフラー

もしあなたがこれから新たに、単気筒・大排気量のダートトラックマシンを仕立てようと考えた場合、比較的容易なのは各社の450ccモトクロスレーサーを選択、それをベース車両としてモディファイし、"DTX" スタイルのマシンを組み上げる方法です。

通常、モトクロスレーサーはシート下後方の高い位置にマフラーを配置し、空中での姿勢制御を優位にするためのデザインがなされますが、本日25回目となった当コラム読者の皆さんは、"TT" を除くダートトラックレースにはジャンプセクションがないことをすでにご存知ですね。

本場アメリカのDTXスタイルのマシンは、筆者の印象として、そのおよそ半数あまりが、腹下ないし右側下後方にダートトラック特性に合致したアフターマーケットのマフラーを配して重心位置を下げ、より高度で余裕のあるライディングを実現するべく改良されています。アメリカ製ダートトラックマフラーは、当地の一般的なレギュレーションである、"アイドリング時105dB以下" という大音量に合わせて設計されているため、そのまま我が国の各地のトラックに持ち込むことは極めて難しいのですが。

撮影: FEVHOTS

というわけで、本コラムのトップ画像でもご覧いただけますが、現在FEVHOTSでは、我々の新しいメンバーでもある東京八王子の "ミヤシタモータース" のご協力を仰ぎ、大森雅俊選手と筆者ハヤシをテスト要員として、国内各地の騒音規制にも適合する、ハイパフォーマンスな "ダウンタイプレーシングマフラー" を開発中です。全容と開発の進捗は、後日改めてご紹介できればと思います。

筆者は、モータースポーツ、その中でも特にダートトラックレーシングは、"特殊な道具を用いるエクストリームスポーツの一種" だと考えています。モーターサイクルという自由な乗り物は、ひとまず適当な車両とヘルメットさえあれば走り出すことができますが、刀の刃を研ぐことや、兜の緒を締めること同様、道具を常に磨き上げることは、自身の安全とより高度なパフォーマンスのためには大変重要なことではないでしょうか。

ではまた金曜の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!