娘をレイプされ無残に殺された母親が思い立つ奇想天外な犯人探しと復讐とは?アカデミー賞主演女優賞・助演男優賞受賞!に輝いた『スリー・ビルボード』。
ストーリー
米国ミズーリ州の田舎町の道路に並ぶ、3枚の広告看板に書かれていたのは、地元警察と署長に対する批判的なメッセージだった。
広告主は、この看板の近くで娘をレイプされたうえ焼き殺された母親ミルトレッド。数ヶ月たっても捜査状況に進展がないことに腹を立てたうえの抗議行動だった。
警察官たちは激怒し、街の住民たちもミルトレッドの行動をやりすぎと批判するが、ミルトレッドは怯まない。やがて騒動は予想もしなかった展開を見せ始める・・・。
不機嫌なヒロインが見せるわずかな心の雪解けにホッとする
本作中、主人公のミルトレッドは常に不機嫌だ。作中を通して、笑顔を見せることはほとんどない。
彼女は娘を殺されたわけだが、その当日、車を貸して欲しいとねだる娘にそれを許さなかったことで、結局娘を失った。自分が車を貸してさえいれば、娘は死ななかったかもしれない、という自責の思いが彼女を不機嫌にさせているのだ。
また、残された彼女の息子もミルトレッドの行動に批判的な態度をとるし、別れた夫は19才の恋人をこれ見よがしに連れ回し、ミルトレッドを苛立たせる。息子も前夫も警察も街の住民も、とにかくミルトレッドの不機嫌の元になっている。そしてなにより自分自身を許すことができない彼女の精神状態はどんどん追い込まれていくのである。
本作は、観る前はただ、殺された娘を思うあまりに愚鈍な警察を相手取っての抗議行動にでる悲運の母親というプロットだけを意識していたが、実際には犯人探しよりも、過度なストレスに対する攻撃的な反応をし始めた女性の、やや狂気に近い鬱憤ばらしという要素が強い。
(実際、物語の後半では、そこまでする??というような驚くべき行動にでるのだ、ミルトレッドさんは。)
つまり、この作品のプロットは、非道の犯人逮捕のためユニークな戦略を選んだ母親の戦い、というより、普通なら耐えきれないような悲運に見舞われた1人の女性が見せる過激な反応、というところにある。
だからそのあたりを知らずに観ると、展開の異様さに少し驚かされる。しかし、丹念に物語を追っていくと、登場人物のほとんどが何かしらのストレスにさらされており、自分を取り巻く環境に対して敵意をむき出しにするか、諦めきっていることがわかる。
本作は、前述のように娘の死に対する自責の念に苦しむあまり、犯人を捕まえられない警察に”八つ当たり”をする孤独な母親の、ストレスへの過剰反応を描いており、正直ラストに向かうにつれて、暗い予感を思わずにいられなかったが、実際には最後はそれなりに明るさというか希望を持たせてくれる作りになっていて、胸落ちはしないものの、なんとなくホッとすることができる。
ハッピーエンド、とはいわないが、ミルトレッドの荒んだ心がわずかながらに癒されて、彼女の表情がほころぶ瞬間がやってくる。そのおかげで、この映画を観た者は誰でも、必ずつられて癒された気分になれるはずだ。