恐竜の化石発掘に勤しむ大学教授のユキ。彼女の前に突然現れたのはラプトルでもティラノサウルスでもなく、12年前に別れた昔の恋人だった。
オートバイ2018年9月号別冊付録(第84巻第14号)「STAB OF LOVE」(東本昌平先生作)より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@ロレンス編集部

やってきたのは昔の彼氏・・・

私は岡田ユキ。古生物学専門の大学教授をしている。
いまは恐竜の化石の発掘作業のために外国でホテル暮らし。え?家族はって?いやねえ、まだまだ花の独身よ♡え?いい歳だろうって?
まあね、もう36歳だけどね。女盛り?そう言ってくれるならそうなのかなっ笑

ママからはいまだにお見合いがどうのこうのと世話を焼かれるけど、私にとっては発掘作業が目下の大問題なの。古代の”彼氏”との出会いのほうがよほどスリリングだと思うの。

今日もそう。学者っぽくはないけど、なんだか世紀の大発見を当てそうでドキドキしてたわ。愛車のドゥカティ・スクランブラー1100Specialでホテルから発掘現場まで走りながら、胸の高鳴りを抑えられなかったほどよ!

発掘作業は丁寧に、コツコツと。地味な作業だけど大好きなの。

ところがその日の高鳴りは、違う出会いの予感だった。出会い?いえ、再会というべきね。大学時代に結婚寸前までいった彼、ヒロ君が突然訪ねてきたの。

12年前に別れた恋人が突然訪ねてきた。なんの前触れもなく

結婚しないか?そんな言葉にうろたえる

久しぶりに会った恋人。世紀の大発見じゃなかったけれど、私にとっては十分な驚きだったし、まるで12年の月日なんてなかったかのように、心は踊ったわ。

ところが、突然彼は真面目な表情でこう言ったの。「結婚してくれないか」って!

せっかくの甘い気分が一気に吹き飛んだわ!私は思わず怒気をあらわにしてこう叫んだ。「帰ってよ!私、忙しいんだから」

それでもヒロ君は言う。「そんなこと言わずにいっしょになろうヨ」
この仕事はつづけてていいからさ、と真剣な表情で彼は言うけど、私には信じられない。彼の言葉が信じられない、というよりも、もうお互い若くはないのに、そんな突然現れた昔の男の情熱の存在を信じられなかった。

私はとにかくヒロ君を拒否した。何も聞きたくなかった。

辛抱強く私に2人の未来を説く彼を、私はけんもほろろに追い返そうとした。やがてヒロ君は諦めたのか、黙って車に乗り込んだ。徒労感を滲ませたその背中に、私は「そんなハナシはもう聞きたくない!」と叫んだ。
ヒロ君は振り返らず、車を走らせ、去っていった・・・。

12年の時を超えて、再び蘇るか、あの時の想いは?

12年前、僕たちは少しの間一緒に暮らしていた。
大学の卒業が迫ってきたころ、僕はユキに求婚した。だが、彼女は大学に残って研究を続けたいという。
ユキは今になって僕がまた結婚を口に出したとき、お互いもう若くない、と言った。だけど僕は思う、12年前のあのときは僕たちはお互い若すぎたのだと。
あの頃、僕には彼女の学問に対する熱意を素直に認めてあげられなかったし、彼女を支えてあげようともしなかった。自分と歩調を合わせてくれようとしない彼女を冷たく思い、ならばと簡単に別れを選択してしまったのだ。
いまになって、そんな彼女の生きる道を認め、支えながらともに歩いていきたいと願う僕は、やはり身勝手だった。ユキが信じようとしないのも当たり前だった・・・。

空港に向かう長い直線をレンタカーのピックアップトラックでゆっくり走りながら、僕はそんなことを考えていた。一度うまくいかなかった恋を、男の勝手な都合で復活させようなんて、やはり無謀だった。12年は決して短い時間ではなかったのだ、と。

そのとき、僕は信じられないものを見た。

僕の車を風のように追い抜き、道のど真ん中で通せんぼするかのように車を制止した一台のオートバイ。それはユキだった。

ユキ!・・・僕は心の中で叫んだ。そしてほとばしる胸の想いを抑えながら車から飛び出した!

さて。

あなたなら、どうする?

何年も前に別れた恋人が復縁を求めてきたら??

この顛末は、本誌でどうぞ!