スターウォーズ最新シリーズのヒール、カイロ・レンを演じるアダム・ドライバーが、内面のさざ波のような心模様を抑えた演技で好演。
平凡な夫婦の何気ない1週間を淡々と描いた詩作のような映画
目覚まし時計を使うことなく、毎日朝6時台に起きて仕事に向かうパターソン。隣に眠る妻にキスし、朝食のシリアルを食べ、仕事に向かう。乗務をこなしてすぐ帰宅すると、妻とのたわいない会話を済ませ、愛犬の散歩の合間に行きつけのバーに立ち寄って一杯のビールを飲む。
彼の密かな愉しみは、なんの変わりもないように見える毎日の中で、心に浮かぶ言葉を詩としてノートに書き留めていくこと。スマホも持たないアナログな方法だけで詩をしたためていくパターソンと、周囲の人々とのとりとめのないふれあいを描きながら、作品全体を一つの詩のように仕上げたのは、ジム・ジャームッシュ監督。
土曜日に起きた出来事で意気消沈するパターソンの前に現れる一人の日本人を、日本の俳優永瀬正敏が演じている。(知らないで観ているとちょっとびっくりするw)
抑えた心情を感じ取ることで受け止められる、人生の素晴らしさ
こういう映画だと思って観ていないと、なんじゃこれ?と頭の中がクエスチョンマークで溢れてしまうであろう作品。そこにはなんのストーリーも事件もなく(いや、実際には毎日何かと変わったことが起きてはいるのだが・・・)、とにかく平凡で変わりない日常が淡々と描かれていく。
物語は同じようにしか過ぎていかないパターソンの1週間を描き、そして最後に起きるちょっとした出来事でさえも、観ている我々からすると大した事件ではない。だから、ハリウッドの大作ばかりを見慣れた(味付けの濃い料理ばかり食べているような)観客にとっては、味がするのかどうかギリギリの薄さの塩味で仕上げられた精進料理を食べているかのような気分になる。
しかし、本当は逆で、我々は普段第三者の目から見ればいつだってどうということのない”事件”に右往左往しながら生きている。ちょっとしたことで一喜一憂しているのだ。
そう思って観直せば、パターソンの静かな1週間の意味がまた違ったものにみえてくる。心を突き動かすような感動も興奮もないが、それでも噛み締めてみれば静かに漂ってくる淡い匂いを感じ取ることができるだろう。妻のローラが朝のまどろみの中でパターソンが前夜に飲んだビールの残り香を感じ取り、それを好きだと告げる。我々もまた、パターソンの静謐な表情の裏側に残る、彼のささやかな感情の発露を薄くとも確かに感じ取ることができるはずだ。