ホンダにまつわる豆知識を紹介する当連載第10回目。世の中には企画・開発されたものの、製品化されることなく消えていったモデルが星の数ほど? あったりします。ここに紹介するホンダMVX350/400Fも、そんなモデルのひとつでありました・・・。

悲運のモデル、MVX250F・・・

みなさんは、タイトル写真に登場しているホンダMVX250Fというモデルをご存知ですか? 1983年2月に発売されたMVX250Fは、ホンダのGPロードレーサーであるNS500と同じ水冷2ストロークV型3気筒エンジンを搭載した、軽二輪クラスのロードスポーツとして作られたモデルです。

GPマシンのNS500を彷彿させるMVX250Fのエンジン・・・もっともNS500は前1気筒、後2気筒の90度V型でしたが、MVX250Fは諸般の事情から前2気筒、後1気筒というレイアウトになっていました。なおスクエアタイプのフラットバルブ・キャブレターは、量産の国産モーターサイクルとしては初の採用でした。

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最高出力は40psとクラス最高レベルを誇るMVX250Fですが、4ストロークV型2気筒のホンダVT250Fとの共用部品を数多く設定することで、VT250Fよりもちょっと高い428,000円という価格設定を実現化しています。

しかし残念ながら、MVX250Fはヒット作になることなく短命でモデルライフを終えることになります。ちょうど同じタイミングで、ライバルメーカーのヤマハがMVX250Fよりも安価で馬力も上回るRZ250Rを投入。さらに2月の半ば過ぎには、スズキからアルミフレーム採用のレーサーレプリカ、RG250Γがデビュー。この「レーサーレプリカ」の元祖的モデルは、250ccクラス最高の45psをマークし、熱狂とともに市場に受け入れられることになります・・・。

この世で一番大事なものは「タイミング」?

ヤマハRZ250RやスズキRG250Γほどの支持を得ることができなかったMVX250Fですが、その成績不振はMVX250Fと同時期に開発されていたであろう「兄」モデルの運命にも影響をおよぼすことになりました・・・。

KG4ことMVX250F(MC09)に続くKG5が与えられていたのは、MVX350/400F(NC14)というモデルでした。排気量的には、250ccよりも排気量的にNS500に近い350/400cc・・・これぞまさに? リアルNS500と呼べる量産市販車でした。

こちらはMVX250Fですが、幻のMVX400Fもほぼ同じスタイルだったようです。なおMXV250Fは日本国内以外にも、海外数カ国で販売されていました。

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しかし、MVX250Fがヒットしなかったことが影響して、MVX350/400Fは完成車になりながらも発売されることなく歴史の闇に消えることになりました・・・。当時を知る人の証言によると、ホンダの研究所のある埼玉界隈の解体屋のヤードに、MVX350/400Fが捨てられていたのを見たことがある・・・とのことです。

MVX350/400Fが完成車になっていたという事実は、当時のMVX250Fのカタログの一部でオプションパーツ装着例にMVX350/400Fが使われていたことなどからも証明されています(※ 実際は、形になったのは350cc版のみ・・・という情報もあります・・・)。

なおMVXシリーズに代わる2ストロークスポーツとして、その後NS250R/Fが1984年に、そしてNS400Rが1985年に発売されることになりますが、レーサーレプリカの文法を守って作られたこれらのモデルは、MVX系よりは好評とともに市場で受け入れられることになりました。

ロスマンズカラーのホンダNS250R。MVX250Fの3気筒と異なり、90度V型2気筒の2ストロークエンジンを採用していました。なおNS250Rはアルミフレーム、フェアリング無しのNS250Fはスチールフレームを採用していました。

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NS系、そして続くNSR250R(1986年〜)の大ヒットによって、MVX系の供養? は済んだのかもしれないですね。しかし幻のMVX350/400F、どんな乗り味だったのか・・・? 確かにカタチになったマシンなので、いつの日にかその数少ないであろう生き残りにお目にかかる日が、あなたの元にくるかもしれませんよ?