年間100本以上の映画を観る筆者が、今からでも観るべき映画をご紹介。
第90回アカデミー賞で最多4部門の受賞に輝いた、ダーク・ファンタジー『シェイプ・オブ・ウォーター』(ギレルモ・デル・トロ監督)。
舞台は米ソの冷戦が激化する1962年の米国。半魚人と思しき不思議な生命体と口のきけない中年女性の間に生まれた摩訶不思議な恋の行方を描く。

1962年、米ソ冷戦時代に実験動物として捕獲された”彼”に恋した女性の決意とは

1962年。米国とソ連の冷戦は激しさを増し、両国は互いの威信を賭けて様々な分野で張り合っていた。口のきけない女性イライザが清掃員として勤務していたのも、そうした分野の一つであり、何らかの極秘研究を行なっている特殊機関の研究所だった。

イライザが”彼”に出会ったのは偶然に過ぎなかった。”彼”とは、研究所に運び込まれた不思議な生き物。アマゾンの奥地では原住民に神として崇められていた彼は、人間に近い四肢を持つが、首には鰓、手には水掻き、全身には鱗のような皮膚を持つ、水棲型の、半魚人とでも呼ぶべき生物だったのだ。

イライザは、”彼”が自分の手話や感情を理解できる知性や、音楽を楽しめる感性を持っていることを知り、急速に惹かれていく。周囲の目を盗んで”彼”との逢瀬を続けるようになったイライザだが、あるとき、”彼”が米ソの政治的な思惑と実験の対象物であり、このままでは近々生体解剖されることを盗み聞きしてしまい、動揺する。

口がきけないことで、周囲の人間たちは好奇の目で自分を見る。しかし、”彼”は自分をありのままで見て、そして好意を抱いていてくれる。”彼”は種族こそ違えども、自分たちと同じかそれ以上の存在であり、政治的実験でその命を奪われることを黙って見ているわけにはいかない。イライザは”彼”を救出することを決意する・・・

バッドエンドではないから安心して観て欲しい

実は本作は、アカデミー賞を席巻したことでもわかるように、美しく画面と緻密なプロット、魅力的な登場人物たちと、良い映画の全ての要素が揃った作品だ。
ただ、なんとなくだろうが、バッドエンドを予感させるムードがあるのか、日本国内ではその面白さや出来の良さとは比例せずに、あまり話題になっていないような気がする。

しかし、ダークファンタジー、大人のおとぎ話という触れ込みは嘘ではなく、能天気なハッピーエンディングではないものの、ちゃんと胸落ちするラストが用意されており、観客は素直にデル・トロ監督の演出と脚本の妙を楽しみ没頭すればいい。変に観客を裏切る凝った作りを好む監督もいるのは事実だが、本作については、カップルで見ても一人で見ても、納得感を得られ、感想を口にしあったり、一人心の中で思索したりと、鑑賞後にも上質の愉悦を与えてくれるので、ぜひ早いうちに体験をしてほしい。

『シェイプ・オブ・ウォーター』日本版予告編(アカデミー賞®受賞!)

www.youtube.com