WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/レースプロモーターのハヤシです。3月1週目から始まった当連載、毎週金曜更新の "Flat Track Friday!!"、5回目の本日は、私が主宰するレースシリーズ "FEVHOTS" の紹介と、我々のさまざまな取り組み、さらに我が国のダートトラックレースシーンを取り巻く環境についてお送りしようと思います。くどく長くならないよう精一杯ペンをふるいますので、どうぞ最後までお付き合いください!

"FEVHOTS" は Far East Vintage Hotshoe Series の略。読み方はフェヴホッツ。

・・・と思いましたが既にシリーズタイトルが長いんでした。スタートした1年目からアメリカン・オイルブランド "LUCAS OIL" をメイン・オフィシャルパートナーとして迎える我々のシリーズ、略称 "FEVHOTS" は耳に引っかかる印象的な造語、ということで考えに考えてひねり出した代物ですが、この正式名称にはそれなりの深〜い想いがあるんです。

Far East = 世界のダートトラックシーンは本場アメリカを中心に広がり、国や地域ごとでさまざまな特色をもって隆盛しているわけですが、FEVHOTSはそのなかでも極東という、いわば "辺境の地であるここ日本に立つ" という地理的な意味と、主に国内東日本エリアを軸として開催するレースシリーズであることを示しています。

Vintage = ヴィンテージバイクでのダートトラックレース、ということを直接的に意味しているわけではありません (もちろん旧車でしつらえたカッコいいレーシングマシンはいつでも大歓迎!です) 。我々FEVHOTSは、このシリーズを、まるで上質なワインやデニムのように、伝統的で普遍的な、将来にわたって価値ある文化となるよう、未来に向けて前進していく "決意" をもっています。

Hotshoe = 先々週に公開したコラムでご説明した "スライディングブレーキ走法" を多用するダートトラックレースに必要不可欠なスキッドシュー (左足に装着する鉄スリッパ)のこと。 まさに我々ダートトラッカーの "アイデンティティー" というべきアイテムです。

撮影: 齊藤淳一(Flattrack Express)

このように活動する地域・将来へのヴィジョン・愛用必須のスポーツ道具、と3点を盛り込んで、略称までも考え出し、運営するレースクルーとして古くからの信頼するレース仲間を集め、いわば夜明け前の、見送るものひとりない波止場を、小さなドロブネに乗ってヨロヨロと出航したのが2012年末のこと。

それは、拠所ないさまざまな事情から、それまで10数年続いた当時国内唯一のダートトラックレースシリーズが終焉を迎え、東日本大震災が起きた1年後のことでした。以来我々は走り続け、今週末4月1日 (日) の開幕戦を皮切りに、6年目の2018レースシーズンを新たにスタートさせます。

2011シーズン限りで営業終了となったツインリンクもてぎダートトラックの夜景。200mと400mの2つのオーバルと夜間照明を有する国内屈指の競技場だったが、経営上の方針変更により、レース参加者のみならず各方面から惜しまれつつその役目を終えた。施設は解体され2018年現在は草地となっている。撮影: 齊藤淳一(Flattrack Express)

FEVHOTSのこれまでの5年間。そしてこれからの・・・10年とか20年とか?

シリーズ誕生当初、FEVHOTSがレース会場として選んだのは、茨城県下妻市・筑波サーキット目の前の "ATGホリースピードウェイ" と、長野県上伊那郡中川村の "オートパーククワ" の2カ所です。

数年の間は安定的にそれぞれ半々で年間シリーズ戦を開催することができましたが、ハイバンク・クレイオーバルの前者は太陽光発電事業への用地転用のため取り壊し・閉鎖となり、ディープクッションが特徴的な後者のトラックは、2016年夏よりリニア新幹線関連のトンネル工事のために休業。なおこちらは旧コース近傍に新たな用地を確保し、2018年内の営業再開を目指してMX・ダートトラックそれぞれを整備する計画で、現在急ピッチの造成工事を進めています。

昨年5月の大型連休中にオートパーククワ移転予定地で行った "FEVHOTSトラックビルドウィーク" 。3日間のべで70人以上が参加し、再オープンに向けた敷地整備作業に従事した。撮影: FEVHOTS

FEVHOTSではコース復活にかけるオーナー・小林哲雄氏の想いを総力を挙げて結実させるべく、昨年は樹木の伐採や芝刈り・整地作業などに多くのメンバーが自由意志で参加。この春からはいよいよオーバル部分の基礎工事がスタート、私ハヤシが基本レイアウトとグラウンドデザインを担当し、新トラックの整備が始まります。

過去5年間には、各地のモータースポーツ関連イベントでのブース出展によるPRなども、盛んに行っています。なかでも浅間モーターフェスティバル・浅間ヒルクライムの両イベントでは、主催者にご理解とご支援を頂き、参加車両パルクフェルメでのアスファルトショートトラック・デモンストレーションを敢行。特にアサマ2000スキー場が舞台となった後者は、国内ダートトラック史上、最高標高地点での走行記録を築くこととなりました。

撮影: 齊藤淳一(Flattrack Express)

また、新たなレーストラック開拓のため、千葉県・群馬県・静岡県など各所でのトラックテストを実施。まったくゼロの状態から最短時間で特設会場を整備する手法、日常的に使用する常設トラックの設計・配置についての検討など、場所と条件ごとに最適な方法での提案を可能にする "トラックビルドテクニック" を日々研究しています。

さらに毎年恒例の夏休みの取り組みとして、長野県飯島町で行われるサマーフェスティバルでの "ちびっこオフロードバイク体験" に10〜20代の若手を中心としたFEVHOTSメンバーを、ライディングインストラクターとして派遣。しっかりとした心構えと装備があれば、オートバイは決して危険な乗り物ではなく、楽しいアウトドア体験・れっきとしたスポーツだということを、過去5年間でのべ数百名の子どもたちとご父兄にお伝えする機会を得ています。

撮影: FEVHOTS

"オートパーククワ" が休業となった一昨年後半からは、FEVHOTSの主たるレース会場は埼玉県川越市の "ウェストポイント・オフロードヴィレッジ" へと移りました。年間5回程度、週末にレースを開催するとともに、その他重要なイベントとして、一般練習走行のライダーの皆様への配慮から、走行台数の少ない毎週平日の火曜日を選んで "FEVHOTSオープンプラクティス" と称し、未経験者・初心者へのインストラクション・中級者への技術指導など、"先達が後進にすべてを伝授する機会"を提案。最近はSNSやクチコミで、当プラクティスへの参加者が少しずつ増えてきている状況です。

撮影: FEVHOTS

メジャーを傍観するよりマイナーを実感するほうが100倍楽しい。by中尾省吾

このフレーズは、30年以上前から現在まで第一線のダートトラックフォトグラファーとして活動し、本場アメリカのレースシーンで絶大な知名度と信頼を築く中尾 "てっぺー" 省吾氏が、かつて月刊誌のご自身連載ページで書いていたもの。一読者だった当時も、懇意にさせていただいている現在も、私のこゝろに深く刺さる名文です。

楕円形の競技場で行われるダートトラックは、その物理的なレイアウトから、観客と走行するライダーとの距離感が非常に近く、容易に一体感を得ることができます。また本場では、その競技特性に由来するものか、あるいは人気種目であるスーパークロスやロードレースに比べて素朴な性格のライダーが集まるといわれ、とにかく多くの関係者がフランク・オープンマインドです。

2017シーズン第2戦のパドック風景。motoGPのスーパースター、M・マルケスが認めるワールドクラスダートトラッカー・FEVHOTS70大森雅俊が、キッズクラス参加のライダーと走行の合間に砂遊び。撮影: FEVHOTS

競技は競技、ライダーたちは文字通り雌雄を決する死闘乱戦を繰り広げますが、パドックは彼らにとって第二のファミリーが集う場所。子が遊び、犬が吠え、穏やかに談笑してレースのスタートを待つ人々。誰かの車両にトラブルが出れば、たとえライバルであろうと皆で寄ってたかって直す。ショウの出演者は皆同じ、"こちら側の人間" なのです。アメリカでは、華やかに演出されるスーパークロスや、コンペティションとして速度やタイムなどデータが最重視されるロードレースと比して、 "ダートトラックには、古き良きレース場の雰囲気が変わらず色濃く残っている" という表現を、しばしば耳にします。

いずれはそんな素敵な風景と文化がこの国でもメジャーカテゴリーとなる日が来ても良いでしょう。でも機微や、情緒のある繊細な "カルチャー" をじっくりと味わえるのは、もしかしてマイナーな今のうちだけなのかもしれません。我が国のダートトラックを、地に足のついた、素敵なショウに育てたい。我々FEVHOTSは常にその想いを胸に、一歩ずつ着実に前進を続けています。

FEVHOTSが誇るメインフラッガー: 和田真。本場American Flat Track Seriesで当代一の、つまり世界最高のフラッグマン、ケヴィン・クラークをして"日本で最も美しくチェッカーフラッグを振る男"と言わしめた。長身の和田が繰り出すドラマティックな旗捌きもまた、我々のショウの重要な要素のひとつ。撮影: 齊藤孝(FEVHOTS81)

主催者ハヤシが目指すもの。

ダートトラックレースはリスクをともなうエクストリームスポーツです。安易な気持ちで取り組めば大怪我をする可能性があり、車両の性能や、度胸だけでは絶対に超えられない壁がある。ある期間を真摯にこの競技に取り組んだライダーは、間違いなくそのことに気づいています。正しい準備と装備を用意することは、道具を使うスポーツとして非常に重要ですし、経験者からの的確な発信・助言なくして、そのための情報や知識を得ることは大変難しいはずです。

逆に言うならば、レースで上位を走るスキルレベルの高い経験者は、身をもって高い地平でこの競技の魅力を体現し、広く社会にその素晴らしさを伝え、さらには後世に価値ある文化として継承するための活動に、より一層力を入れていかなければなりません。己のためだけにがむしゃらに走るのも、最初のうちは結構です。走りに多少の余裕が生まれたのなら、周囲に目を向ける。困っている初心者には手を。誤った方角へ進む気配には優しく軌道修正を。この競技の未来に渡る発展の妨げとなる物事には厳正な対応を。

6年前このFEVHOTSというシリーズを立ち上げた当初、ATGホリースピードウェイのコースオーナーであり伝説のレーサーでもあった、故・堀雄登吉氏に "君はこのレースを全国規模のシリーズとする考えがあるか?" と直球の質問を投げかけられたことが思い出されます。いわゆる全日本格式、という意味合いだと思いますが、私の答えは当時も今も "NO THANKS. " 。これまで以上にさらに進化 = 深化した、各地のトラックでのローカルレースシーンの充実なくして、上位のネイションワイドシリーズなど存在する意義がない、と直感的に答えた当時の考えは、現在までまったく変わりません。

FEVHOTSは、東日本エリアにしっかりと軸足を置き、ダートトラックレースの本場米国で脈々と受け継がれる伝統に迫る、"刺激的で本格的なローカルレースシリーズ = THE GREATEST SHOW" を目指します。2018開幕戦は明後日4月1日(日)埼玉県川越市・オフロードヴィレッジにて開催予定。我々の活動とダートトラックレースにご興味お持ちいただけましたら、ぜひ、会場へ足をお運びください!

See You at the Racetrack on Next Sunday.
グルグル場でキミを待つ。
撮影: FEVHOTS