長年勤めてきたテレビ局を辞めて、自由な生活を求めて、ほぼ廃墟化したカフェを借りて住み着いた松ちゃん。突然悪友ガブ・ロウが急に訪ねてくるという。
ちょいと前に奴の彼女を寝取っちまったことがバレたのか??ドキドキする松ちゃんだが、美味いコーヒーをとりあえず用意して待つことにした。果たしてガブの用件とは??
Mr.バイクBGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第19話「呟く星座」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集 by 楠雅彦@ロレンス編集部

ガキの頃からの悪友ガブ・ロウがやってくる。

夕方まで降っていた雨はあがり、妙に生暖かい空気が濃密に夜を包む。
そんな夜にガブがやってくる。ガブことガブ・ロウは私の中学以来の悪友で、アメリカ軍属の父親を持つハーフだ。

彼女に運転させ、自分は後部座席に物憂げな顔で踏ん反り返った態度はろくな奴のそれじゃない。俺がオンナなら、絶対選ばない奴だ。だが、男同士の場合は、人の道を踏み外していようと性格が破綻していようと関係なく、ダチになれるものさ。

私には急にガブが私を訪れる理由にアテがなかった。ついこの間二人で飲みまくり、羽目を外して以来だが、そんな短期間にまた話さなければならないほど、互いに話題が豊富なわけでもなかったからだ。
まあ、こないだ飲んだ時に、ちょいと奴には言えないことをしてしまったから アテがないというわけでもなかったが・・・。

なかなか用件を言い出さないガブ

やってきたガブは思いの外上機嫌に見えた。
どうやらあの件じゃないらしい。内心ホッとした私は「おう、どうした」と声をかけた。

ガブはその問いかけには答えずに私のドヤに入ると、修理を待つ数台のオートバイを見て「あいかわらずだな」と笑った。「まるでバイク屋だな」

ガブはバイクにまたがり、嬉しそうにはしゃいだが、なかなか用件を切り出さない。
どうやらあの件ではないにせよ、そう楽しい話じゃないらしい。私はガブと彼女にコーヒーを出し、とりあえず飲むように勧めた。

松ちゃん、俺・・アメリカに行くわ

するとガブは、思いつめたような声で用件を切り出した。

どうやら仕事に行き詰まり、日本を離れる決意をしたらしい。松ちゃんよう、とガブは情けない声を出した。「俺・・・・アメリカに行くわ」

案の定、ロクな話じゃない。私にはガブがアメリカに行ってうまくやれるとは到底思えなかった。
「俺アメリカ国籍だからヨ。父親のいるアメリカに行けばなんとかなると思うんだ」とガブはいう。私は胸の内で、おまえのアメリカに何があるというんだ、と呟いたが、声には出さなかった。

もがき続けるおじさんたちの苦悩・・・

ガブはそれだけ言うと、彼女と二人で帰っていった。
彼のアメリカ行きの決意がどれだけのものかは私にはわからない。ただ黙って奴の話を聞いていた。

いい歳をして、なにを人生に迷っているのだ、と言いたい気もしたが、考えてみれば私だってガブと同じだ。本当に自分のやりたいこととはなんなのだ?その問いの答えをいまだに持ち合わせていない。

50歳をとうに越えたというのに、若い頃からもがき続け、人生の大詰めにきてまだもがいている・・・。