現在の制作チームによる3作目となる本作では、未知の星雲で行方不明になった宇宙船の捜索に向かったエンタープライズ号を、謎の小型戦艦群が襲う。壊滅的な被害を受けたエンタープライズ号はある惑星に不時着するがー。
比較的シンプルなストーリー展開と激しくスリリングな戦闘シーンは見所十分、過去2作と比べて、より分かりやすく誰にでも楽しめるエンターテインメントだ。
自らの進路に悩むカーク船長とスポック副長らを襲った謎の敵
エンタープライズ号は、さまざまな銀河、数多くの星雲を調査して未知の生物や文明の存在などを調査するという使命を負って無限の宇宙を旅している。任務は5年だが、本作の時点で既に3年が経過している、という設定だ。
主人公でありエンタープライズ号の艦長(キャプテン)であるカークは、3年にわたる宇宙の旅に倦み始めており、艦長を辞して宇宙コロニー”ヨークタウン”の副提督への”転職活動”中である。
任務の重要性はともあれ、あまりに広大で無限の宇宙の海は方角を失いやすく、カークはモチベーションを失っていたのだ。
同時に、カークの右腕(副艦長)で、常に沈着冷静(というよりDNA的に感情の起伏に乏しく、論理的)な異星人(バルカン人)のスポックもまた、バルカン族の復興という民族の使命を果たすために艦を下りることを考えていた。
ツートップが共に人生の進路に迷い、動揺しているそのとき、物資の補給に寄ったヨークタウンに未知の星雲に不時着した宇宙船からの救難要請が入る。危険を伴うその任務を遂行できる船はエンタープライズ号だけだ。
カーク艦長らは己の迷いを胸に秘めたまま救出に向かうが、目的地に近づいた途端、謎の小型宇宙艦の集団に襲撃され、あっけなく撃沈されてしまう。クルーたちは小型ポッドで大破したエンタープライズ号から脱出するが、カークら数名を残して ほとんどのクルーたちは謎の敵に捕らえられてしまった。
不時着した惑星アルタミットでスポックたちと合流したカークは、アルタミット星人の生き残り ジェイラの助けを得て、クルーたちの奪還計画を立てる。ジェイラによれば、エンタープライズ号を襲ったのはクラールという男に率いられた謎の集団であり、突如現れた彼らによってジェイラの家族も虐殺されたのだという。
果たしてクラールの目的は?そしてカークたちエンタープライズ号クルーたちの運命は??
キャラ設定もストーリーも分かりやすく入り込みやすい、よい作品
本作では、スター・トレックシリーズの真の主人公であるはずのエンタープライズ号が、映画序盤で無残にも破壊されるという、非常にショッキングな始まりかたをする。
また、これまで多くの冒険によって惑星連邦(地球人だけでなく、さまざまな惑星の文明の連合体)の危機を救ってきたカークが、”中年の危機”を迎えていて、俺、このままでいいのかな的に人生に迷いに迷ってしまっているという、状況が説明される。
ある意味スター・トレックの根本原理を揺るがすような設定に、観ているほうは強い不安に陥ってしまう(笑)。しかし、かつてない強敵の襲来に、本来の能天気で無鉄砲な冒険家であるはずのカークの本来の性向が表に出てきて、我々は安心する。エンタープライズ号が破壊されるという危機に際して、カークが、必ず逆襲して勝利を収めようとする粘り強さと勇気の持ち主であることを示してくれるので、すぐに物語に入り込めるのである。
また、エンタープライズ号からの脱出の際に大怪我を負ってしまうスポックもまた、いつもの冷静さと論理性を発揮しつつも、囚われたクルーの中にいる、今は不仲になっている恋人(ウフーラ)への執着を覗かせ、男の弱さと可愛らしさが垣間見れて”感情移入”しやすい。スポックを助ける良きバイプレイヤーとしてのDr.マッコイとの掛け合いも面白く、今回は登場人物たちのキャラが従来以上に生きていると思う。
壮大なCGやエキサイティングなアクションは従来の作品も同じだが、本作は設定がよりシンプルで、話が分かりやすいので、初めてスター・トレックシリーズを観た人でも十分楽しめるはずだ。
120分を超えるやや長い作品だが、一気に観られて物語もキャラ設定もささっと消化できる。エンターテインメントとはこういうものだ、と納得できる作品だ。