長年勤めてきたテレビ局を辞めて、自由な生活を求めて、ほぼ廃墟化したカフェを借りて住み着いた松ちゃん。齢57にもなって、なんとも人生に迷っている。
Mr.バイクBGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第18話「雲雀のソラ」より
デジタル編集 by 楠雅彦@ロレンス編集部

松ちゃんとは縁があるのさ(ソウルスピード)

オレ、ソウルスピード。ゼファー1100をこよなく愛するイケてる男さ。

え?松ちゃん?もちろん知ってるさ。あのおっさんにオレのゼファーを直してもらったことがあるのさ。SR乗りのくせにえれェ速えんだ、それに歳のわりに無茶な走りすんのさ、人のこと言えねえけどよ!

なんか気難しいおっちゃんでよぉ、人の顔見ればなんか嫌な顔するんだけど、オレみてえにガチなバイク乗りの格好してると、たいていの大人は顔をしかめるから気にしちゃいられねえって話よ。
で、ゼファーを直してもらって以来、なんとなく松ちゃんのドヤに顔を出すようになったってわけ。

その日も春らしく気持ちよく晴れたしさ、バイクの調子もいいし、いい感じで松ちゃんに会いに行ったんだけどね、ちょっとしたハプニングがあってびびっちまったよ。

立ちふさがる女に仰天・・・・その先にはヒバリの巣??

まじいい感じでくねくねと曲がった坂道を駆け上がっていったオレだったんだけど、坂を登りきったところにさ、松ちゃんのドヤに入り浸ってるリナって子が両腕をひろげて通せんぼをするように立ってたのさ、ほんともう少しで轢くとこだったんだぜ!
あっぶねえところ、このオレ、ソウルスピードのテクじゃなきゃ、間違いなくドンとぶつかってたね。マジで。

グオン!ドゴォオッッッ

おいおい、勘弁しろや・・・・

リナが言うには、オレはもう少しでヒバリの巣をバイクで蹴散らすところだったらしい。
いやいや、そんなとこにあるなんて知らねえって・・・・

困惑するオレに「もうちょっとでひきつぶすところよ」ってリナは言うけど、知らねえし。オレ、悪くねえし。

ヒバリの子たちの姿に自分を重ねるバイク乗り?

しばらくして、ヒバリの卵たちから可愛い三羽の雛が孵った。
オレのせいだけでもないと思うが、うるさいバイクや人間たちが巣に近づきすぎたために、親鳥は卵を見放してどこかに行ってしまったらしい。
なぜか鳥の生態にも詳しい松ちゃんがリナに餌付けのやり方を教えてたが、なんであのおっさん、やたらいろんなこと知ってやがるのかな。こないだなんかサーフボードの加工とかやってたしな。変なオヤジだぜ、まったく。

それはともかく、雛たちは室内を飛び回れるくらいに元気に育ったが、そのうち松ちゃんが巣立ちさせて野生に返そうとしたものの、三羽のうち一羽は庭先で死んでるのを発見することになったってことだ。

三羽中、二羽はどこかに旅立てたんだし、悪くねえじゃんと思うんだが、松ちゃんは少し沈んだような表情をしていた。

なんでかな。自分の姿でも重ねてたのかな。
オレにはおっさんの気持ちはわからねえ。でも、そんな松ちゃんは、嫌いじゃないのさ。
オヤジだけどな。

(続く)