西風先生作『西風 CROSS ROADS 1』「Rockin' Daddy」より
8歳の国光少年が心待ちにする週末
僕、国光、8歳。
今日は父さんが車で峠を走る日だ。もちろん僕も一緒。
天気がよくて、父さんと母さんの機嫌がいいときにしか出られないんで、いつも週末の朝は二人の顔色を見るのが、すっかり習慣になっちゃった。
父さんの車は日産スカイラインGT-R。最近のじゃない、とってもとっても古い、一番初期型の車。たまに誰かがハコスカって呼ぶのを聞いたことがあるけど、ほんと四角い車なんだ。
父さんの用意ができるまで、エンジンを温めるのは僕の仕事。冷たいシートに座り込んで、水温計とにらめっこするんだ。しばらくすると「温まったか〜ッ?」って父さんが遠くから聞いてくる。僕は水温計を確かめてから、十分あったまったよー!!って叫ぶんだ。すると父さん、渋いジャンパー羽織ってガレージにやってくるんだ。
ご機嫌な父さんと寒さに震える少年
峠につくと父さんはすぐにさらにご機嫌になる。そんなときは、きまってスカイラインの神話を話し始めるんだ。レースでどれだけ強かったとか、天才レーサーが運転してたとか、いろいろと繰り返す。なんども聞いてる僕は既に飽きていて、それよりいっこうに温まらない車内で、両手で自分の肩を抱いてブルブルしてるんだ。この車、ヒーターないんだけど、父さんはそれでいいんだとしか言わない。
だけど寒いものは寒いんだよ、父さん。
”R”とロックな父さんが大好きさ
父さんはひとしきり峠を走ると、いつも決まったドライブインにやってくる。そこには車好きのお兄さんたちがたくさん集まって、ご自慢の車を並べて車談義してる。
おっきな車や目立つ車がたくさんあるけど、僕たちが駐車場に近づいていくと、お兄さんたちは顔を輝かせてこっちを向くんだ。「お!Rじゃん」「GT-Rじゃねえか」って、口々に言ってくれるんだ。
そんなとき父さんは”当然だろ”って表情をしながら車を降りて、店に入っていく。そんな父さんはとっても”かっこいい”。そして、父さんと同じくらい”R”のことを誇らしく思うんだ。