「こうあるべき」を、いつの時代もカワサキは突き破る
ボクは10代の頃にハーレーダビッドソンに憧れて、オートバイに乗ろうと決心をしました。だからこういうアメリカンクルーザー的なオートバイを見ると、反射的に「昔、憧れたハーレー」と脳内で比べてしまうんです。
やっぱりエンジンはVツインじゃないとダメ、とか今時の国産アメリカン(←昔はこう言われたりしてました・笑)は趣が足りないとか、そんな感じ。だからカワサキのバルカンSが登場したときも、失礼ながら「こうじゃないんだよナァ」なんて感じていました。
こういう新世代クルーザーとしては、ヤマハがボルト(BOLT)をラインアップしていますし、ホンダは先ごろレブル(REBEL)を発表しました。そして、ホンダの新型レブルを写真で見た時に思ったんです。
「あれ?こうなるとカワサキのバルカンSって、他とちょっと違う感じじゃない?」と。
丸目1灯のヘッドライトじゃないことが物語る
ホンダのレブルも、ヤマハのボルトもヘッドライトは丸目1灯で、新しい中にもクラシック感が演出されていますよね。でも、バルカンSはどっちかっていうとロードスポーツのようなヘッドライトデザインになっています。その時から、バルカンSを見る目がボクの中で少し変わりました。
そして今年の1月に、大人っぽいカラーリングで彩られたバルカンSのスペシャルエディションが発売されたときに「これだっ!」と思ったんですよ。
KAWASAKI VULCAN S ABS/Special Edition
ロードスポーツのようなヘッドライトデザインとホイールのリムラインテープ、エンジンを覆うようなゴツいフレームにレイダウンして搭載されたリアサスペンション。それをアメリカ西海岸的なカスタムスタイルでアレンジしています。そしてまた、このスペシャルエディションのカラーリングが何とも高級感バリバリです。
ストレッチされた燃料タンクは、今時のアメリカンクルーザーのイメージ。スリムなデザインが扱いやすさにもひと役買っています。
エンジンは最高出力61馬力。極低速からドコドコゆったり、というより、すこしエンジンを回して機敏に走らせたくなるキャラクターです。
レイダウンされたリアサスペンションは、ここだけ見ると純粋なロードスポーツのようです。カワサキはやっぱり「走り」にこだわっています。
カスタムホイールのようなデザインにリムストライプを組み合わせ。現代的な「カッコいい」が追求されています。
アナログのタコメーターを中心にレイアウトされたメーターは、ロードスポーツのイメージに近いですね。夜はブルーのバックライトが妖しくて良い感じ!
なるほど、これは確かにクルーザーじゃない。
発売当時の第一印象で「こうじゃない」とか思ってた自分が恥ずかしくなりますね。ボクの中にあるアメリカンクルーザーは「こうあるべき」を、バルカンSに上書きされてしまったんです。こうなるとボクは、どういう服で乗るとカッコいいか、を勝手に妄想するようになります(笑)
何年が前に買ったダイネーゼのコート風ライディングジャケットを引っ張りだしました(笑)一見、普通のコートみたいなのに、フルプロテクションというお気に入りです。
クルーザーっぽくワイルドに革ジャン!じゃ、チョットつまんない。もっと大人っぽく、カワサキっていう孤高の存在に相応しく、ライダーも演出したくなります。このスペシャルエディションの高級感を損なわないように、シックな感じが良いかもしれません。
おおお……バルカンS、すげぇカッコいいじゃないか!?
そこに置いてあるだけでも強い存在感がありますけれど、このバイクはライダーが跨ることで完成するデザインですね。いいね!これは自分に酔える!!(笑)
ところで「走り」はどうでしょう?
カワサキは総合メーカーですが、Ninjaシリーズに代表されるように「スポーツバイク」を得意とするブランドです。なにせスーパーチャージャー搭載のH2なんていうモンスターまで造っちゃうくらいですからね。でも、そのポリシーはバルカンSにも徹底されていました。
時速50km~60kmくらいからの加速が爽快です。颯爽と走る、のが良く似合うオートバイでした。
走りは機敏さが信条です。エンジン回転数を低めでゆったり走る、というより、少しエンジンを回してスパッと駆け抜けたくなるキャラクターです。スタイルとは裏腹に「スロットルを開けることを楽しむ」っていうスポーツバイクとしての面白さが強く感じられました。
特に時速50~70kmからスロットルを開け足すのが快感!シュバッと加速態勢に入ります。このあたりにちょっとロードスポーツらしさを感じますね。バルカンSの排気量は650ccですから、パワーは充分。いや、むしろこれくらいが愉しみながら加速を味わうには、ちょうどいいんです。
ステップ位置は日本人の標準的な体格にジャストフィット。特にハンドル幅が狭めなので、ものすごく運転しやすい!(ライダー身長:176cm)
シート高は705mmと低めなので、よほど小柄な女性でもない限りは、安心の足着き性を確保できると思います。足が着く安心感ってホント大事!
でもハンドリングや扱いやすさは、これでもかっ!っていうくらいに安心&超イージー。ぶっちゃけライダー側が何もしなくても、スッと曲がり、スパッと加速します。荷重移動とか、難しいことは一切考える必要がありません。
ゆったりじゃなく、純粋に『加速を味わう』ことに特化しているのがバルカンSらしさ、と言ったところでしょうか。
見える風景が、他の何にも似ていないバルカンS
アメリカンクルーザーにはゆったり椅子に座るようなライディングポジションによって、リラックスしたまま流れていく風景を、余裕をもって愉しめるというアドバンテージがあります。けれどそこにロードスポーツのような性格が加えられたバルカンSの走りは、風景の見えかたにすこし違いがありました。
ベタに言い回しになっちゃいますが『風を切る』イメージ、と言えば良いでしょうか。流れる風景が、後ろに溶けていく。バルカンSは、ロードスポーツを走らせるときの景色の躍動感をクルーザーの乗車姿勢で味わうことができるんです。
なるほど、確かにバルカンSは単純なクルーザーじゃありませんでした。だからといって、ピュアなロードスポーツという訳でもない。既存のカテゴリに当てはめにくいバイクだったんです。やっぱりカワサキ車はちょっと違うナ、って印象です。
でもこれは、言い換えると「新しい」っていうことと同じだと思います。
常識に捉われない発想で、既存の枠組みを突き破るのは、いつの時代も変わらないカワサキらしさですよね。アメリカンクルーザーの安心感の中で、スポーツバイクの高揚感を楽しむのがバルカン「S」ってことなんです。
そして走りの面白さを、カワサキ流儀の『カッコいい』で最終パッケージ!
使い古されたカテゴリなんてカワサキには関係ないんです。いいじゃないですか!?カッコいいオートバイっていうのは、いつの時代も正義なんですから!