長年勤めてきたテレビ局を辞めた。自由にやりたくて辞めたはずなのに、なぜか情に流されからまれて、望んでもいない仕事をやらされている。
私はいったい何がしたいのだろう?私を悩ませるこの息苦しさはなんなのだろう??
Mr.バイクBGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第15話「自由の女神を見たいんだ」より
デジタル編集 by 楠雅彦@ロレンス編集部

気に入らない若造のゼファーを修理するはめになって・・・

古いカフェを改装して住み着いた私は、漫画を描くかたわら、バイク屋の友人の手伝いをして生計を立てている。
今さら青くさいと言われようとも、自由にやりたくて長年勤めた会社を辞めて、ここまできたはずなのに、頼まれれば、気が乗らないことも引き受けている自分がいる。

いま調子を見ているこのゼファーだってそうだ。乗り方が気に入らない若造のバイクなんて修理してやるいわれもないが、友だちに頼まれて気乗りしないまま、こうして時間を遣っている。

なにごとも深入りしないようにしていたはずなのに、気がつけば情にからまれて少しも自由な気がしない。

自由なほうだと思うよ、と言われても気は晴れない。

馴染みの喫茶店のマスターは「ないものねだりってところだな」と言う。
その表情は”あんたは十分自由だろ”とでも言いたげだ。

そもそも・・とマスターは逆に尋ねてくる。「松ちゃん(私のことだ)の言っている自由ってどういうヤツなの!?」

そんなこと、わからない。というより、わかっていればこんなに息苦しく思ったりはしない。

「松ちゃんの言っている自由ってどういうヤツなの?」「わからないよ」

松ちゃんは自由なほうだと思うよ、と言うマスターの顔は、お前は贅沢なんだよ、と言っているかのようだ。

海は気ままよ。けど人はそうもいかないな。だから楽しいんじゃないの?

私はマスターに頼まれて(ここでも情にからめられている)、サーフショップにコーヒー豆を届けに出た。
12年前にこの店を出したのは、西山夫妻。豆を渡したらすぐ戻るつもりだった私だが、奥方のクミちゃんに引き止められて、コーヒーをご馳走になる。

海から戻ったサーファーのダンナは、私にも波乗りを勧めてくるが、こんな寒い日に海に入る勇気はないので断ると、「真冬にバイク乗るより暖かいと思うぜ」というダンナの言葉に苦笑させられた。

「海は自由気ままかな?」

ふと、心の声がつぶやきとなって唇からこぼれ出た。
怪訝な表情を浮かべた西山夫妻に気づき、私は慌てて席を立ち、暇乞いをした。

別れ際に、サーファーのダンナは私の胸の内を推し量ったように「海は気ままよ。けど人はそうもいかないな。だから楽しいんじゃないの?」と言った。

そうかもしれない。

だけど、そうじゃない。私の息苦しさはちょっと違うのだ・・・。

あなたは松ちゃんの気分がわかりますか?

何かしようと思って行動したのに、思っていたような結果が得られないこと、ありますね。