10年ぶりに偶然出会った、別れた恋人同士。かつて二人はオートバイを介して絆を深めていたが、男は既にオートバイを降りていたー。大人の男と女が描く、古くて新しいラブストーリー。
『オートバイ 2017年 2月号』特別付録『RIDE』掲載「On The Way」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@ロレンス編集部

彼の視点2 :カムバック。まだ終わりじゃない。

私は結局ZRXを買った。
ファイナルエディションを買うことで、私自身踏ん切りをつけようと思ったのだ。 絶版車になるかならないかは自分次第。現役にこだわれば、いつでも走り出せるし、いつまでも走り続けられるはずだ。

ほどなくして納車されたZRXにまたがり、私は夜の街に出た。彼女が走っているかはわからない、ただ二人に縁があれば出会えるはずだ、確信はないが、不思議にそんな予感がしたのだ。

そして、彼女はいた。
私は胸を高鳴らせながら、アクセルをひねり、彼女の前に出た。

RIDEX 13掲載

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二人は朝まで走り、思い出の場所へと向かった。
ヘルメットを脱いだ彼女の顔には、あの日見た曇った表情はなく、朝日に似て晴れやかで輝いていた。それは10年前の恋人の顔だった。

久しぶりに乗ったオートバイ、まだ感じがつかめない。
同じように、10年の月日を超えた彼女との関係も、距離感がまだよくわからない。感じがつかめない、そんな感じだ。

それでも行けるところまで行ってみよう。

人生はいつだってファイナルエディション。彼女の艶やかな笑顔に見とれる間も無く、私は彼女に手を取られて歩き出した。