ガキの頃から単気筒(シングル)が好きだったが、最近ではYAMAHA SRにハマりまくっている。故障して不動車になったSRを見つけては、コツコツ直し、リビルドしたエンジンを行きつけの喫茶店に置かせてもらっている。最初は「いいディスプレイになる」と喜んでいたマスターだったが、あまりにも持ち込み過ぎたと渋い顔をし始めた。仲のいい常連客たちも俺の変わった道楽だといわんばかりだ。
分かってくれとも言わないが、それでもSRのエンジンの可愛らしさ愛らしさをどうにか共感してもらえないものかと、もどかしく感じる俺がいる・・・。
月刊オートバイ2017年1月号特別付録 RIDE「The Material Girl」より
分かってくれとも言わないが、それでもSRのエンジンの可愛らしさ愛らしさをどうにか共感してもらえないものかと、もどかしく感じる俺がいる・・・。
月刊オートバイ2017年1月号特別付録 RIDE「The Material Girl」より
彼女に出会ったのはクリスマスを過ぎた年の瀬だった。近くに放置してあったSRにまたがり、エンジンをかけようとしていたが、なかなかかからない。傍目に見てもわかるくらいカスタムされているそのSRに、女は苦戦しているようだった。そのまま通り過ぎた俺だったが、2度目に通りかかったときには、思わず声をかけていた。
顔を上げた女は、思いの外若く、美しかった。
彼女がいうには、そのSRは買った時からカスタムされていたという。半年ほど乗らずにいたら、エンジンがかからなくなってしまったのだそうだ。
俺は彼女に代わって、SRを見てやることにした。動かない、いや、動けないオートバイほどかわいそうなものはない。健気に彼女が戻ってくることを待っていたSRは、少し拗ねているだけなのだ。俺は慎重にキックを踏み込んだー。
それが彼女と出会うきっかけだった。
喫茶店で邪魔者扱いされ始めたエンジンたちの可愛さを、俺は彼女に説明したい欲求にとらわれ、彼女をそこに連れていった。彼女もまた、マスターや他の仲間たちと同じような怪訝な表情をするかもしれなかったが、構わず俺は一つ一つのエンジンに懸けた想いを伝えた。
果たして彼女の顔には、いままで誰も俺に向けたことがない温かな共感の笑みが浮かんでいた。
通じた・・。
その喜びは、すぐに彼女への恋に近い気分へとつながった。
俺は、いや、俺たちは、シングルのオートバイを愛している。そしていま、2台のSRは一緒に走ることで、ツインになったのである。