エディ・レッドメイン主演、世界初の性別適合手術を受けた人物リリー・エルベをヒントにデヴィッド・エバーショフが記した小説『The Danish Girl』の映画化。実在の人物であるリリーを描いてはいるが、設定や時代背景などはフィクション。

舞台は、1926年のコペンハーゲン。だから原題は デンマークの女、となっているわけだ。

画家同士の夫婦、アイナーとゲルダは、仲睦ましいカップルだった。しかし、アイナーは妻を愛しながらも心の何処かに女装への渇望を抱えていた。そして、アイナーはゲルダの肖像画のモデルの代役として踊り子の扮装をしたことをきっかけに、一気に自らの心の中にある”女の性”に気づいてしまうのだ。

冒頭に述べた通り、本作は世界で初めて性別適合手術を受けて、女性となった男性を描いている。女性になりたいという密かな願望に気づいてしまった男と、その願望を”面白い”と感じてしまった女。

女(妻)は芸術家であり、男(夫)の中の倒錯した欲求を、芸術家にはありがちなある種の変態性と考えた。淑女が奔放な娼婦を演じることを座興と考えるように、自分の夫の女装を変質した性的な欲望の現れととらえたのだ。だから彼を女装させ、リリーと名付けた上で、パーティーに連れ出した時も、すべて冗談でありゲームに過ぎなかった。しかし、実際には、彼のそれは”本物”であり、内なる性が男ではなく女であることに気づき、それを否定も拒否もできなくなっていくのだ。

悪戯心で夫を女装させ、パーティーに連れ出した妻だったが、それが取り返しのつかない悲劇の始まりであったことを知る。激しく後悔するが、もはや止めようがないことを絶望の中で理解せざるを得ない。アイナーの心の中に潜んでいたリリーを表に引っ張り出してしまったのは、ほかならぬ自分自身なのだと。

21世紀の現代にあっても、我々すべてが100%受け入れているとは言い難い、ある種の衝動を抱えている人たちへの理解。いや、理解はしても、近親者や自らが愛する人の中にその衝動が隠れていると知った時に、どんな衝撃を受けるか・・・。

自分は取り返しのつかないことをしてしまった。自分の軽はずみな遊び心が理解したのちに、彼女がとった行動は、あまりに切なく、そして心を揺さぶる。

『リリーのすべて』本予告90秒

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