アバルトのDNAは感じられるのか

ついにアバルトの2シーターオープン「124スパイダー」が登場した。さっそく取材に連れ出し、アバルトらしさは感じられたのか、走りはどうだったのかを確認した。ここではその詳細を報告する。
(Motor Magazine2016年10月号より)

アバルト124スパイダー:全長4060mm×全幅1740mm×全高1240mm、ホイールベース2310mm、車両重量1130(1150)kg、トランクルーム容量140L、エンジン 直列4気筒SOHCターボ(マルチエアターボ)、エンジン型式 3268、ボア×ストローク72.0.×84.0mm、圧縮比9.8、最高出力125kW(170ps)/5500rpm、最大トルク250Nm(25.5gm)/2500rpm、JC08モード燃費 13.8(12.0)km/L、トランスミッション 6速MT(6速AT)、タイヤサイズ205/45R17、車両価格388.8(399.6)万円 ※()内は6速AT車。

エキサイティングな化学反応

アバルト初のオープンスポーツモデルと銘打って登場した、アバルト124スパイダーが日本についに上陸した。いや、その表現は正確ではない。このクルマはマツダ ロードスターをベースとし、マツダ本社工場にて生産されているからである。

このプロジェクト、元々はマツダとアルファロメオとのコラボレーションだったのが、途中で相手がフィアットへと変更になり、ここから往年のコンパクトスポーツカーのリバイバルであるフィアット124スパイダーと、高性能版のアバルト124スパイダーが生み出された。正式に聞いたわけではないが、ここ日本での販売がアバルト版だけとなったのは、フィアットではマツダロードスターと価格帯も市場もバッティングするからだろう。

それでも、今までになかったエキサイティングな化学反応であることは間違いない。このアバルト124スパイダーとは、一体どんなクルマなのか。ロードスターとの比較は後に譲るとして、まず言えるのは単体で見た時に、このクルマが実に魅力的なコンパクト2シータースポーツカーだということである。

エンジンフードの下に収まる1.4Lマルチエアターボ

ヘッドライトやラジエーターグリル、テールランプなど、スタイリングには各部に往年のフィアット124スパイダーから引用されたモチーフがあしらわれている。しかしながら、決して過去の姿を再現しようとしたわけではなく、ディテールは現代的に昇華されたかたちだ。

フロントバンパー下部や、ディフューザー形状とされたリアバンパー下部などがブラックアウトされているのはアバルトの特徴。わかりやすいスポーティさの表現だが、ちょっとドギツい感もある。

これもまた、往年の124スパイダーからの引用であるモールディングが設けられたエンジンフードの下には、アルファロメオのジュリエッタなどでもお馴染みの1.4Lマルチエアターボエンジンが収められている。最高出力は170ps/5500rpm、最大トルクは250Nm/2500rpmを発生する。

ギアボックスは6速MTと6速AT。駆動輪は言わずもがなのリアで、トルセンLSDも備わる。タイヤサイズは前後205/45R17だ。

1.4L直4ターボ(マルチエア)エンジンをフロントアクスルより後方の前後アクスル間に搭載して重量物をできるかぎり車両の中心に集中させている。

刺激的で持て余すことのないちょうどよい動力性能を実現

一方、トップエンドまで回すとゼブラゾーンは6500rpmからで、体感的にもここで頭打ち感はある。しかしながら、そこに至るまでのパワーの出方はフラットで、実に頼もしい。しかも、単なるトルク型というわけではなく、回す楽しさ、回したくなる扇情感は、しっかり備わる。この辺りは、さすがイタリア製というところである。

あるいはアバルトのイメージとしてサソリの毒のハードな雰囲気を想像していると、裏切られるかもしれない。それはシャシも同様で、とくに普段乗りでは、むしろどっしりとした印象が色濃い。

サスペンションはダンピングがしっかりと効いていて、乗り味にはどっしりとした印象すらある。フラット感も高く、挙動は全般に落ち着いている。

車両重量は1130kg(AT車は1150kg)という軽量化を実現。パワーウエイトレシオは6.6kg/ps(AT車は6.8kg/ps)というクラストップレベルを達成した。

サソリの毒が全身に回ってずっと乗っていたくなる

ステアリングフィールの良さも特筆したいところで、レスポンスはクイックだが、手応えには程よい重さがあり、いい意味で質高い動きと感じさせてくれる。それでいて、スパッと切り込めばクイックなリアクションがしっかり返ってもくる。このバランスは秀逸だ。

サスペンションは路面からの細かな入力に起因する振動がよく抑えられていて、動きに心地良いストローク感がある。ロールもピッチングも小さくはないが、その速さや前後バランスは、すべてよくコントロールされているという印象。それを利用して積極的に曲げていくことも、あるいは安定させることもできる。

厳密に言えば、タイヤサイズが大きい分なのか、グリップからスライドへ移行する時に、わずかに引っ掛かりというか段付きを感じないわけではない。しかしながらいったん、姿勢をつくってしまえば、パワーがある分、それを維持するのはよりイージー。これは、姿勢をアクセルペダルで自在に制御できるクルマに仕上がっている。これは、どこから踏んでもすぐに欲しいだけのトルクを発生するエンジンと6速MTのギア比のマッチングのおかげでもあるし、またLSDの効き具合が絶妙なおかげでもあるだろう。

ロードスターをベースにするが、スタイリング、パワートレーン、室内装備・材料、サスペンション、ステアリングフィールなどはアバルトの独自開発となる。

主にこのエンジン特性のおかげで、アバルト124スパイダーは速いけれど速過ぎない、あるいは刺激はあるけれど持て余し過ぎることもないという、ちょうど良い動力性能が実現されている。何よりコントロール性の高さこそが、際立つポイントである。

街乗りオンリーであっても、打てば響く反応の良さに心が弾むし、このトルク感があれば、サーキットに持ち込んでも物足りなさとは無縁のはず。アバルト124スパイダーは、どんな場面であれ一緒に走り、楽しみたいと思わせるスポーツカーに仕上がっていた。

シートはアルカンターラ/レザーが標準装備だが、レザーシートをセットオプション(レザーシート/ナビゲーションパッケージ 216,000円)で用意する。

サソリの毒というわりにはマイルドと感じられるだろうか? いやいや、四六時中ずっと乗っていたくなるという意味では、その毒はしっかり身体中を回っていたと言うべきだろう。もちろん、このクルマを手に入れようというオーナーならば、それもまた大歓迎のはず。かつては想像もしなかったコラボレーションは、間違いなく新しい歓びに繋がったのである。後編ではいよいよあのクルマと比べてみることに……。(文:島下泰久/写真:永元秀和)

エンジンフードの膨らみはエンジンが縦置きであることを示唆し、オリジナル124スパイダーを彷彿とさせるデザインとしている。

ドライブモードセレクターでモードを切り替えることでアクセルペダルレスポンス、パワーステアリングのアシスト量などが変化。

赤い盤面に白抜き文字の大型タコメーターが正面に、その右横には270km/hまで刻まれるスピードメーターが配置される。

アルミニウム製スポーツペダルを標準装着する。サーキット走行時は、ABS、EBD、ESCの機能を限定させることもできる。

イグニッションオンで起動する7インチのメインディスプレイにはスタート画面としてアバルトのエンブレムが浮かび上がる。

タイヤの銘柄はブリヂストン ポテンザRE050A。サイズは205/45R17で、ブレーキシステムはブレンボ製を装着する。