夏野 剛さん(大学特別招聘教授) 2015年3月30日

どうして今までこういうクルマが出てこなかったんでしょうね。クルマは必要だからずっと乗ってきたけれど、楽しいとまで感じたことはなかったんです。だからモデルS試乗のお誘いをいただいた時も、すぐには興味がもてなかった。ところが促されて試乗したら一発で気に入ってしまいました(笑)。その場で予約。こんなに楽しいんならもっと早く乗ればよかったと後悔したくらいです。

モデルSを単にバッテリーをたくさん積んだEVとしてとらえるのは本質的ではありません。これはクルマにUI(ユーザーインターフェース)の変革をもたらした存在。だからこそ魅力を感じるんだと思います。クルマというのは、1908年に登場したT型フォード以来、最小限の計器類でドライバーに最小限の情報だけを提供しながらひたすら安全に運転させるというスタイルが主流でした。これに対してモデルSは、ステアリング奥のメーターパネルに加えて、17インチのタッチスクリーンを搭載し、ドライバーはさまざまな情報を受け取りながら走らせることができます。

例えば、電費をグラフで表示するエネルギーモード。あのグラフが表示されているだけでラフな運転をしたくなくなる。グラフの折れ線が上に大きく振れていればそれはムダに電気を食っている証拠。それが大きなスクリーンに表示されるんだからカッコ悪い。こういう風に、エコ運転を指示するのではなく、チャレンジとして楽しみに変えてくれるあたりが素晴らしい。

また細かい点で言えば、指でスクリーンをスライドすれば直感的にパノラミックルーフを開閉できたり、シートベルトのアラートが無粋な警告音ではなくMacのサウンドエフェクトにありそうなおしゃれな音だったり……とにかく運転や操作が楽しい。

モデルSに感心すると同時にガッカリするのは、こういうUIは従来のIC車でもできたはずだってこと。実際、モデルSが出るずっと前に、日本の自動車メーカーの方に「iPadのようなものをセンターパネルに埋め込んで操作するようにしたらどうですか?」と提案したことがある。「日本の夏は暑さが厳しいので大型液晶ではもちません」と一蹴されたけど、大丈夫じゃないですか! モデルSの液晶が夏場に壊れたって話は今のところ聞いてませんから。(笑)。

テスラモーターズはそんなに難しいことやっていません。しかし、日本のみならず世界中の自動車メーカーがやらなかったことをやったから成功しているのではないでしょうか。それと従来の尺度からで見ても、このクルマにはいい点がいっぱいあるんです。まずデザイン。広大な室内スペースとスタイリッシュさをここまで両立できているクルマは少ない。さらに一部が開閉するいわゆるサンルーフではなく、全体がガラスで、大きく開くパノラミックルーフを条件に加えると、モデルS以外にほぼ見つからない。これぞ僕が欲しかったパッケージ。

モデルSによって僕の生活は変わりました。今では打ち合わせや食事など、駐車する度にこまめに充電するのがくせになりました。iPhoneみたいな感覚です。僕はマンション住まいだから自宅に充電器を設置できないけれど、容量が85kWhあれば、都内にいる限り航続距離について困ることはない。それとトランクにある後ろ向きの子供用シート、これは子供の心わしづかみです。乗せると喜ぶから一緒に出かける機会も自然と増えましたね。

2月頭に納車されて、最も遠くへ行ったのは御殿場。今度は軽井沢まで足を延ばしてみようかと楽しみにしています。

記事提供:TESLA
デジタル編集:Akiko Koda