そんなとき、昔馴染みのディーラーから「ちょっと試乗しによりませんか?」という電話があって、いそいそとでかけたのがアウディ。試乗したのは、今回で3代目となる新型Audi TTだ。TTはポルシェ911シリーズ(もしくは911のルーツである356)を彷彿させるような、丸く猫背のようなシェイプを持つクーペで、911同様に2+2(2ドアで、申し訳程度の狭い後部座席を持ってはいるが基本的には2人乗りを想定したパッケージ)のスポーツカーである。
国内で手に入るラインナップは、TT Coupé(クワトロ™採用のクーペ)、TT Roadster(クワトロ™採用のオープンカーモデル。Roadsterのみ2シーター)、 TTS Coupé(クワトロ™採用の高性能版クーペ)の3モデルだが、私が試乗したのは、TT Coupéだった。
コンパクトだがパワフルなスポーツカー
TT Coupéの大きさは、全長 4,180mm x 全幅 1,830mm x 全高 1,380mm。幅こそ広めだが、全体的にはかなり小さな車だ。フォルムが似ていると言った911の現在のエントリーモデルである911カレラ(2016)は全長4,505 mmで全幅1,835mm。TTのコンパクトさがわかるだろう。
ただし、911カレラのホイールベースは4,505mmでTTよりも短い。ホイールベースが短いほうが運動性能がいい、とは一概には言い切れないが、TTは今回先代よりもコンパクトになった反面ホイールベースを長くしてきており、ハンドリングより直進安定性をとった、ということかもしれない。
また、911と似ているとは言ったものの、コンポーネントは当然かなり違う。
RR(リアエンジンxリアドライブ)、つまり後輪より後ろにエンジンを置き、後輪を駆動させるが、TT Coupéは、FF(フロントエンジンxフロントドライブ)。フロントに 最大出力230ps・最大トルク37.7kgmを発生させる1,984cc 直列4気筒DOHC インタークーラー付ターボチャージャーを積んでいるが、FFは、基本的に経済効率を考えた駆動方式であり、熱心なスポーツカーファンの間では評価されづらい方式だ。
スポーツカーにはスポーツカーの文法があって、FR(フロントエンジンxリアドライブ)か、ミッドシップ(運転席と後輪の間=車両の真ん中にエンジンを置く、リアドライブ)でなければならない、というファンは多い。例外なのは911だけでRRという古臭いコンポーネントを超一流のスポーツカーに仕上げてきたからこそ、熱狂的な信者を生んでいる。
(だからこそ、アウディでさえフラッグシップである自社の高性能スーパーカーR8には、ミッドシップを採用している。ちなみにR8のパッケージは同じフォルクスワーゲングループのランボルギーニとの相互技術提供による)
しかし、Audiは、「FFのスポーツカーねえ・・・」という声を、独自の四輪駆動技術であるクワトロ(quattro®=4輪すべてに駆動力を配分する、フルタイム4WDシステム。新型Audi TTには、後輪への駆動力伝達に電子制御の多板クラッチを使った最新のシステムが採用されている)によって抑え込む。FFはフロントヘビーになるし、後輪にトラクションがかかりづらい、という点でスポーツカーには向かない、とされるが、TT Coupéはクワトロによって、全ての車輪に駆動力が配分され、あらゆる路面に対して最適なトラクションを全輪に与えることができるのである。
実際、試乗していて、それほどの速度域でないからであるにせよ、ピタッと路面を食いつくように走る感じは、なんとも安心感をあたえてくれるものであった。
逆に言えば、911が本来不利であるはずのRRを捨てずに、技術によって高性能スポーツカーとして成立させたように、アウディもまた独自技術で、本来スポーツカーには向かないFFベースのTTを高性能スポーツカーとして成立させた、という意味で、やはり両者は似ている、と言えるのかもしれない。
乗り込めばわかる最先端のテクノロジー
ご存じかと思うが、2015年に日本へのデリバリーが開始されたこの3代目Audi TTには、(3モデルともに)Audi史上初となるAudiバーチャルコックピットが搭載されている。バーチャルコックピットとは、運転席に設置されているスピードメーターとタコメーターのエリアが(12.3インチの)高解像度のカラー液晶となっており、簡単な操作で、3Dのカーナビやテレビ画面などに切り替えられるというインパネ(インストルメントパネル)のことだ。
したがって、Audi TTの運転席と助手席の間には、カーナビ画面はなく、非常にすっきりしている。
試乗ではナビを使う局面はなかったが、視線を正面から外す必要がないというのは案外大きな利点だと思う。
正直、アナクロな機械式メーターに郷愁を感じる私としては、デジタルで液晶で表示されるバーチャルなメーター類にはエキサイトメントを得ることはなかったが、それでもカーナビのパネルを排して、インパネに統合するというアイデアは秀逸だと思えた。
また、エンジンを切り、ドアを開けると、CMでおなじみのあのアウディの心臓音のようなサウンドが”ドクンドクン”と響く仕掛けになっており、やりすぎだと思いながらも(笑)、実は結構心を掴まれて、この車を今すぐ手に入れたい、という欲求を湧き起こされたことを告白しておこう。
女子ウケはどうかな・・・結構いいんじゃないかな??
まず2+2、つまり4座席あるとはいえ、後部座席は大人が座るのはほぼ無理。スリムな女性だとしても、大人であれば1人で座って少しカラダを傾けてスペースを作らなければ窮屈で我慢できないだろう。あくまで緊急避難的な使い方と心得るべきだ。ただ、2座席のスポーツカー(例えばZ4やボクスター)と比べれば、荷物を気軽に後ろにおけるのはなんとも楽だ。そういう意味では日常使いという点で、ピュアな2シータースポーツカーよりは高得点、ということになるだろう。
家族で使うにはちょっと不便だろうが、愛しい女性を誘うなら、これはこれで良い車だと感じた。ついつい女性ウケを考えてしまうのが私の悪い癖であるが、いかに昨今は車に興味のない女性が増えたとはいえ、ドライブデートはいつの世でも楽しい習慣だし、ある程度閉ざされた空間に好きな異性と2人になれるという体験は、必ず恋にはプラスのエッセンスであるはずだ。
その意味で、TT Coupéのインテリアは過度に男くさくはなく、シンプルであるがリュクス感は結構ある。ハイテクな感じと、クラシカルで洗練された品の良さが両立していると思う。全幅は広めのTTだが、コクピットは案外中央よりで、2人の距離は思ったより近い。静音性は高いが、なかなかに乗り手をやる気にさせるサウンド(リアルなものというよりも、デジタル的に作り上げられた音であるとのことだが、それはそれでよし)が、会話を妨げない程度に響くのもいい。
見た目はちょっと可愛らしく、スポーツカーにありがちな獰猛さはないTTだが(とはいえ、初代、2代目に比べると、少し直線的なデザインになり、男性的になった、とは言える)、逆に見た目で女子を構えさせたり怯えさせることはないと思う。走り自体も、ありあまるとはいえない程よいエンジンパワーであり、十分に速く走れるだろうが、スパルタンというほど荒々しい車ではないだろう。
好きな子を乗せて、ちょっと遠出にでて、快適さを失わない程度のスポーツ走行と、おしゃれなムードを楽しめる。こういうスポーツカーは私的には、アリだ。
ものすごく喧嘩が強くなくても、何かあったら女子を守れる勇気と自信くらいはあって、しかも見た目は洗練された物腰を持つ青年なら、女の子にはウケがいいだろう。このTT Coupéはそういうちょうどいい魅力を持った一台だ。
え?お前、買ったのかって?
いや、それはまた別の話なのです。
コンパクトだけど十分すぎるほど速いTT Coupé。
あなたは欲しくなりましたか?