悲しけりゃ、ここでお泣きよ。失恋レストランならぬCafe Romanにやってきたのはヒロシ。
3ヶ月も口説いて、ようやくデートにこぎつけたお嬢さまの麗子を愛車のスーパーセブンで迎えに行ったはいいが、途中で機嫌を損ねて帰られちまった。おまけに雨も降り出してきて、哀しい心を幌で隠して、Romanで雨宿りと決め込んだのさ。
『GTroman THE FIRST IS THE MACHINE』より

念願叶って愛しい彼女の同意を勝ち取ったヒロシは、デートの当日の太陽を見て、「ダーティーハリー」のクリント・イーストウッドばりに、俺の日が来たぜと勇んだものさ。

とっておきの一張羅を着込んで、愛するスーパーセブンで彼女を迎えに出たヒロシは、まるで本当に恋愛映画の主人公にでもなったようで、気分は最高潮だった。
ところが、彼女の顔色は冴えない。一目みただけで、セブンはどうもお気に召さないらしい。どうにか乗ってはもらったものの、うるさくて風ばかり強くて、せっかくセットした髪もぐしゃぐしゃ、すれ違う車の排気ガスは車内に容赦なく入り込んでくるしと、走れば走るほど、ご機嫌斜めになっていくじゃないか。

ただしヒロシは気づかない。彼にとっちゃセブンの走りは最高のエンターテイメントだし、セブンのエンジン音も風切音も極上のミュージックなのさ。
果たして彼女はヒロシをおいて、帰ってしまう。怒る彼女も彼女だけど、せっかくのデートにおしゃれを決め込んできた女の子の気分も察してやることができないヒロシもヒロシ、ってとこなんだ。

女には逃げられ、雨には振られ。ヒロシの休日は散々なものになっちまった。
泣ける気分を幌で隠して、ヒロシは行きつけのカフェに出向く。

強面のマスターも車好きで、ここいらじゃあ知らぬ者がいないほどの走り屋。
ヒロシがことの顛末を話すと、マスターはバーボンを差し出してこう言ったのさ。

女にゃわかんねぇぜ。
特にあの車(セブン)は!

そうかもな。
俺が悪かったかもな。自分の趣味を押し付けちまって、彼女に悪かったなって、ヒロシは反省したんだ。

とはいえ、辛いことにはかわりない。だからヒロシは失恋の痛手を苦い酒でまぎらせるしかなかった。

そのとき、カフェのドアが開いて、女の子が入ってくるなりこう言ったんだ。「スーパーセブン誰のォ?シブイわね」って。

【教訓】

男の趣味や主義をわかってくれない女の子を追うよりも、わかってくれる女の子を探す方がいいってことさ。

よかったな、ヒロシ。