ジャガーFタイプの特別な1台、SVR(Special Vehicle Operations)に試乗できた。舞台にサーキットが用意されていたが、そのエモーショナルで優雅な走りに驚かされた。(Motor Magazine 2016年8月号)

SVR専用の20インチ鍛造アルイホイールを装着。またフロントグリル左右にあるエアインテークの形状がノーマルとは異なる。

 今年3月に開催されたジュネーブオートサロンでジャガーが公開したFタイプSVRは、2013年から市場に投入されているFタイプのハイパフォーマンス版である。“SVR〞.とはジャガー・ランドローバー社の噦スペシャル・ビークル・オペレーション部門で仕立てられたスポーティでハイエンドなモデルである。ジャガー・ランドローバーには経営陣やマーケティング、そしてエンジニアにドイツ人が多く、こうしたドイツ的な戦略が採用されているのだろう。
 さて、このFタイプSVRの試乗会がスペイン、バルセロナ郊外で開催された。眩しいほどのスペインの陽光の下で、私はまずブリティッシュレーシンググリーンのテストカーを探したが、残念ながらそれは用意されていなかった。代わって鮮やかなブルーを選択する。 

インパネまわりはグラック基調で仕立てられ、全体的にかなりスポーティ。本革巻きステアリングホイールもSVRの専用装備だ。

5リッターV8エンジンは低回転から非常に力強い

 Fタイプの基本的なデザインは11年に公開されたプロトタイプCX16なので、すでに5年が経過している。しかし、ロングノーズ、ショートデッキ、すなわちスポーツカーの黄金比とも言われるプロポーションのおかげで飽きがこない。というよりも当初からクラシックな印象を漂わせている。
 SVRにはこの古典的なボディをベースにフロントに大きなエアインテーク、そしてリアには車幅いっぱいの可動式カーボン製スポイラーが装備される。これは112km/hで自動的に起き上がり、リフトを最大で80%抑える効果を持つ。さらにリアエンドではディフューザーの両脇から左右合計4本のマフラーが覗く。また軽量化も実行されており、チタン製マフラーや鍛造アルミホイール、そしてオプションだがルーフはカーボン製に置き換えられている。

FタイプRが最高出力550psであるのに対し、SVRは575ps。25psのプラスであるが、これがベストと判断された。

 搭載されるエンジンは2年前に限定生産された「プロジェクト7」と同じチューンのコンプレッサー装備の5リッターV8で、最高出力は575ps、最大トルクは700Nmを発生する。また組み合わされるトランスミッションはZF社製の8速ATで4輪を駆動する。ジャガーによれば0→100km/h加速は3.7秒、最高速は322km/hに達する。
 基本的にスタンダードなFタイプと共通のインテリアも古典的で、巨大なセンターコンソールが中央を占拠している。ただし、アットホームなスイッチ類のレイアウトで、インフォテインメントへのアクセスを含めて操作性は悪くない。スタートボタンに軽くタッチするとV8の咆哮が響き渡るが、そのサウンドはAMGのそれとはやや異なり、エキゾーストノートに混ざって金属的、メカニカルな音色が加わってくる。それは回転を上げるにつれて際立つ。
 加速フィールもターボとは異なり、低回転域から力強いプッシングパワーを感じる。8速ATはよどみのないギアチェンジで快適性を保ちながら高速域へと達する。

空力性能を突き詰めることにより、最高速はクーペで322km/hを叩き出す。リアまわりでは可変ウイング、ディフューザーを装着する。

 最近アメリカでジャガーを多く見かけるのは、やはりDCTにはないトルコン式ATのもたらすイージードライブが受け入れられているのだろう。しかし、それは必ずしもスポーツ性とのトレードオフではない。
 この日の午後から郊外のサーキットで行われたスポーツ走行で示したスポーツモードでのシフトタイミングは、DCTに劣らない素早さと確実性を持ったシフトワークを見せてくれた。同時に締め上げられ、トルクベタトリング機能も与えられたシャシは、しなやかな猫足を堪能させてくれたのである。
 このFタイプSVRは、ポルシェ911ターボを仮想ライバルとして開発された。スペックは似通っているが、全体的な印象はこちらの方がややジェントルである。日本国内での車両価格はクーペが1779万円と、911ターボよりもはるかにお買い得である。(文:木村好宏/写真:Kimura Office、ジャガー・ランドローバー・ジャパン)