©東本昌平先生・モーターマガジン社
少年の頃、自転車で沈む夕陽を追って走ったことがある。気が付いたら日はとっぷり暮れて、僕は今どこにいるかわからず、迷子になっていた。
スマホなどない時代の話だ。ほとんどべそをかきながら、闇雲に帰り道を探して走り回ったのを覚えている。
大人になってから同じことをすれば、たいていの人は「バカなことを」とあざ笑うだろう。しかし、ライダーというものは、そういう少年の頃の気分を色濃く持ち合わせている人種なのである。
©東本昌平先生・モーターマガジン社『RIDE92』より
スマホなどない時代の話だ。ほとんどべそをかきながら、闇雲に帰り道を探して走り回ったのを覚えている。
大人になってから同じことをすれば、たいていの人は「バカなことを」とあざ笑うだろう。しかし、ライダーというものは、そういう少年の頃の気分を色濃く持ち合わせている人種なのである。
©東本昌平先生・モーターマガジン社『RIDE92』より
いまでも仕事が終わると、愛車で夕陽を追いかける男。
男はガキの頃と変わらない。
あの頃と同じこだわりを抱えながら生きている。だから彼はいまでもオートバイで夕陽を追いかけるのだ。そこに意味などいらない。追いかけたいから追いかける。
全開で走る。
しかし、やはり気がつくと陽は沈んでいる。
この、気がつけば、というのはなぜか悔しい。
唇を噛み締めながら帰路につく・・・
たとえオートバイであっても、夕陽には勝てるわけがない。
それでも、もっと速いバイクなら?とバイク乗りは夢想する。男は新しいバイクを買うのだ。
それでね、と切り出した男の横顔にはかつての悔しさはない。きっといつかは追いつくさという根拠のない自信が笑みとなって溢れるのだ。
YAMAHA YZF-R1に乗り換えて、今日も男は夕陽を追う。
挑戦し続けること。あの頃と変わらないこと。そいつが大事なんだ。