2000年のカタナ生産終了から16年。しかし今尚そのスタイリングは美しく、見る者を感動させてやみません。日本刀をイメージしたというデザインはそれまでにない斬新な発想でした。
ではそのデザインのルーツとは?『RIDE65』に掲載された「今、明かされる"誕生の真実"」より、一部をご紹介します。

カタナ誕生の背景とは

『RIDE65』では、スズキの協力のもと実現した、GS/GSXシリーズの生みの親で知られるスズキの名エンジニア・横内悦夫さんと、スズキの海外営業担当でありカタナ商品化の仕掛け人である谷雅雄さんの2人のインタビューを掲載しています。

(左)横内悦夫さん(右)谷雅雄さん/©モーターマガジン社

カタナの製作にあたったのは、ドイツ・ミュンヘン郊外にあるターゲットデザイン、すなわちBMWのデザイン室から独立したH.G.カステンとJ.O.フェルストローム、そしてH.A.ムートが設立した工房で、80年のケルンショーにおけるプロトタイプの登場はまさに衝撃でした。
それでは、それが実際に市販されるまでの過程はどのようなものだったのでしょうか?

ターゲットデザインMVとの邂逅

GSX1100Eを造った横内さんにすら、新しいスタイリングの計画は明かされておらず、ある日突然本社に持ち込まれたそう。

当時を振り返った谷さんはこう語ります。
「わたしにはやるべきことがふたつありました。ひとつはスズキの海外現地法人を作ること。もうひとつは、そのためにユーザーにアピールするデザインのオートバイを造ることでした。」

この頃谷さんはヨーロッパを担当されており、ドイツのモトラッド誌がデザインコンペを開催するということで、その企画がスズキにも持ち込まれたそう。
そこで、過去にスズキと関係のあったジュージアーロ(RE-5や4輪のフロンテクーペのデザインを手がけた)に、イタリアの代理店を通じてGS850Gをベースに手がけてもらったといいます。

1979年、ドイツのオートバイ誌『モトラッド』が増刊号の巻頭企画としてデザインコンペを開催。そこに寄せられた作品たち。/©モーターマガジン社

ところが、フタを開けてみたらターゲットデザインのMVアグスタがダントツに素晴らしいものでした。これはスズキにも欲しいとすぐに思い、当時のドイツの代理店、のちのドイツスズキに連絡をして「担当者に会いたい」と谷さんは申し出ました。

モトラッド誌主催のデザインコンペに出品されたMV750S/©モーターマガジン社

そして何度かやり取りするうちにムートさん本人に会う機会があり、デザインを担当してくれるよう打診しOKをもらいました。その後、最初に出来上がったのがGS650Gでした。

これがコードナンバーED1、つまりヨーロッパデザイン第1号となりました。
ED1の次はED2です。あのMVのような造形のモノを作ってくれ、とすぐに発注したそうです。

ED2、日本へ。衝撃を呼ぶ

ED1を製作してから、80年夏のケルンショーまでにはあまり時間がなかったものの、比較的トントン拍子に話が進み出来上がったクレイモデル。それを見た横内さんは、感動して心の中で拍手を送ったと言います。

しかしながら、オートバイの機能として、いくつか問題があったと横内さんは指摘します。
「例えば、メーターの位置が高すぎる。伏せた時に前が見えないということです。また、シートの前の方が高くタンデム部分が低い。これでは加速した時前のライダーにはストッパーがないし、後ろのライダーは尻がシートカウルに当たるとかですね。」

そうなると、生産化するにあたりミーティングが必要となりますが、やはりデザインチームと設計についてモメる事態に。そこで横内さんはドイツ人デザイナーにこう伝えました。
「あなた方のデザインの基本は絶対に壊さない。だから、あなた方のデザインも機能を害してはならない」

これを聞いたデザインチームは首を縦に振るわけですが、その筆頭にいたムートさんはこう加えました。
「日本の武士道、侍の精神は素晴らしい。その象徴が日本刀、すなわちカタナで、これは武器であって芸術品である。それを表現したのだから、壊したくないんだ」と。

それを受けた横内さんは、1mmたりともプロファイルは変えるなと設計陣に命じました。
なにしろカタナですから、切っ先がかけては台無しです。タンクの側面、いちばん外側のところの小さいアールがプレスで裂けるなど、生産技術的には苦労する部分もあったものの、とにかく基本デザインは死守することを貫きました。

いざ、ケルンショーへ

デザインと設計、生産化などいくつもの苦労をくぐり抜けたカタナは、ケルンショーに出るまでに至ります。
すると、展示車の前には常に人が30~40人はいる状態になりました。初日に即席アンケートをとってみると、「非常に良い」と「非常に悪い」の真っ二つという結果に(笑)
これはいいぞ、とこの時点で発売がほぼ決まったわけです。

永遠の輝きを持つデザイン

©モーターマガジン社

初期型販売から何十年経っても、その人気は冷めやることはありません。
きっと22世紀になっても評価される芸術性がカタナにはあるのでしょう。

カタナ誕生秘話はまだまだ尽きません。続きは、『RIDE65』にて。