ロッキーのライバルにして親友、元世界ヘビー級チャンピオンのアポロ・クリードの息子アドニスのトレーナーとして、ボクシング業界に復帰したロッキー。親友の遺児に、自らの後継者としての夢を託す、老いてなおボクシングへの情熱を滾らせるロッキーの姿に、誰もが胸を熱くするだろう。
馴染みのストーリーに新設定を加えた作品
『ロッキー』はシンプルな映画だ。
己の拳だけで人生を切り開こうとする貧しい若者が、突然降ってわいたような大勝負の話を得て、挑戦し、そして勝つ(第1作ではロッキーは僅差で判定負けするが、試合には負けても勝負には勝つのだ)。それがロッキーの基本コンセプトであり、一貫して変わらない。同時に、シルベスター・スタローンという俳優の個性にかなり負うところが多く、演出やストーリーのうえではかなり甘くて粗いところが多くて、深みはない。
だが、パワーがある。まるで継接ぎだらけのシャシーに大排気量のエンジンを乗せた改造車のようだ。重箱をつつくように粗探しをするのは簡単だが、それがどうした?と鼻で笑えるのがロッキーなのだ。
今回は、引退した老チャンピオンが、初の大舞台の相手であった男の息子のトレーナーを引き受ける、という設定が加わっている。ロッキーはなんども強敵・難敵と戦い、勝ってきた。そのおかげで名声も大金も得たが、息子にはボクサーの才能はなく、彼を継ぐ者はいなかった。それがロッキーの心残りであり、彼の人生に寂しい影を落としてもいた。
そして、主人公のアポロの息子アドニスは、アポロの愛人の息子で、施設を転々としてきた挙げ句に、ボクシングに自分の人生を賭ける決意をしてロッキーを頼ってきた。二人の想いが交錯し、結実することで、新しい物語が生まれたのである。
すべてを勝ち取り、すべてを失った男と、すべてを諦めかけてきた若者とのタッグ
ボクサーに限らず、アスリートは現役中と現役後の人生が完全に切り替わる。
大抵は現役としての選手生命の終わりを悟れば、新しい人生の始まりを受け入れるものだが、それができない人間も多い。華々しい選手生活であればあるほど、切り替えはなかなかできないものだ。
ロッキーは自らの引退、親友や愛妻の死を受け入れてきたが、そのつらさ・哀しさはその度に彼の心に治り難い傷をつけてきた。自らが戦いに身を投じているうちは忘れようもあったが、引退して静かな余生の中で、ロッキーは隠匿者のようになっていたのである。
さらに本作では、妻エイドリアンを奪ったのと同じタイプの癌がロッキーの体を蝕む。精神的に傷ついてきた彼は、生への執着を持てない・・。しかし、アドニスとの間に生まれた新しい絆が彼を病との戦いへと駆り立てるようになる。同時にそのロッキーとの絆と、体の中に流れる亡き父アポロの血を信じて、アドニスもまた、最強のチャンピオンへの挑戦を決意するのである。
若い命と老いてなお燃える命がタッグを組む。それがロッキーの後継作品『クリード』の見所だ。
もう一度繰り返すと、本作に緻密なストーリーや伏線は期待しないでほしい。
ただそのパワーを感じ、熱情を受け止めて胸に火をつけてほしい。そういう映画なのである。